2009年11月24日

牡蠣小屋大騒動

牡蠣小屋なるものに行ってみたかった。まず名前がいい。牡蠣で小屋である。やっぱりオイスターでバーより、牡蠣で小屋だ(なんだか意味不明だけど)。
海産物というのは鮮度が重視されるが、中でも牡蠣は別格。そういえば「美味しんぼ」の山岡士郎は暴走族のバイクに二人乗りして牡蠣を運んだんだっけ。
なので牡蠣は海で食べるのがいちばんらしい。だから牡蠣小屋。大変わかりやすい。

というわけで行ってきました。福岡は糸島半島、岐志漁港の牡蠣小屋。糸島半島の牡蠣小屋は岐志漁港以外にもあるのだけれど、ここがいちばん数が多い。10軒近くの「小屋」があるそう。この日は小雨混じりの肌寒い日とはいえ、連休中である。相当の混雑が予想される。となれば数が沢山あるところの方が平均すれば混まないのではないかという判断である。
が、甘かった。
漁港に着くと車、車、車。数え切れないくらいの車が埋め尽くしている。その向こうに立ち並ぶビニールハウスが目指す牡蠣小屋。その後ろは海の筈なのだが見えない。とにかく車の向こうにビニールハウス。そこから延びる人々の列。とてもシュールな光景である。

とりあえず並ぶ。何の予備知識もなく並んだのだが、店によってファンが付いているようで、「あ、ここ」「ここだここだ」などといいながら並ぶ人が多い。見かけは同じビニールハウスなのだが、牡蠣の値段や、炭火かガスかや、サイドメニューなどによってかなり個性があるらしい。
並ぶのは苦手なのだが、なにしろ海である。漁港である。ここまできて並ばなければほかに何にもしようがないのであった。

ちょうど1時間で中に入れた。ハウスの中はもうもうと焼ガキの匂い。ハウスの中央に通路が一本通っていて、両脇にベンチ。炭コンロがずらりと並んでいる。これが焼き肉なら、1時間も待って炭火の前に案内されればもっとギラギラした雰囲気になりそうだけれど、そういう雰囲気ではない。なんとなく落ち着いている。炭火なのにどこか枯れた感じが漂ってる。
新しい炭を運んできた店員さんが「何キロにしますか?」。いきなり「何キロ」という食べ物屋もなかなかない。
時期的なものなのか、やや小ぶりの牡蠣で、1キロ10数個見当。5,6個網の上にのっけて待つ。とりあえず待つ。ビールを飲んで待つしかない。
ヒマである。
ハマグリとかならすぐに口を開けそうな気もするし、なにより愛嬌があるが、なにしろ牡蠣だ。岩を網の上にのっけってるみたいで愛想もこそもない。どうにもヒマなのである。

なので「きょう入荷」の手書きの張り紙に書いてあったワタリガニも頼む。「カニも食うか」程度のほんの気まぐれだったのだ。それがまさか・・・。

運ばれてきたワタリガニは3匹。輪ゴムで手足をぐるぐる巻きにされている。ではさっそくとゴムを外した瞬間だった。
「わああ、生きてる」
いきなり私の指めがけてハサミを振り下ろしてきたのだ。「危ない!」と後ろから店員さんの声。カニを放り出し、慌てて両手に軍手を嵌める私。ものすごい勢いでテーブルから逃げだそうとしているカニをトングでつかみ、裏返して網の上へ。これで大丈夫だろうと思ったのもつかの間、「おおお、ブリッジしやがった」。ワタリガニが手足をいっぱいに広げ、ハサミで網をつかんでこれでもかとばかりにブリッジしているのだ。「こ、こいつめ」おびえながらトングで網に押しつける私。「早く焼けちまえ」。気分は殆ど猟奇殺人者である。

すっかりカニに気をとられている間に牡蠣が焼けている。「お、焼けた焼けた」と軍手を嵌めた手で牡蠣をつかんだ瞬間、「わっちゃっちゃっちゃ!!」牡蠣の口の隙間から猛烈に熱い蒸気が噴出していたのであった。
「わあああ」とわめきながら今度は牡蠣を網の上に放り投げる私。四十男は牡蠣小屋ですっかり落ち着きをなくしたのであった。

肝心の牡蠣の味はというと、これはもう、うまいの一言。あんまり芸が無くてもうしわけないが、とにかくうまい。私実は街で食べるときは牡蠣の好き嫌いが結構あって、信頼のおける店でしか食べない。牡蠣独特の潮臭さが「美味しく」感じられるものと「臭く」感じられるものがあるからだ。前も書いたけれど、家で食べるときは大根おろしで徹底的に洗う。
でも牡蠣小屋の焼ガキはまったく厭な臭いがなかった。「牡蠣独特の」と思っていたあの磯臭さはもともと牡蠣にあるものではないようだ。
「美味しんぼ」じゃないけれど、牡蠣は水揚げしたら一秒でも早く食べるべき、というのは間違いなさそう。
牡蠣を食べるなら牡蠣小屋で。これはやはり正しいみたい。
また行こう。できれば平日に。

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2009年11月21日

ごぼ天うどん

お昼はごぼ天うどん。正しくは「ごぼう天うどん」だが、「ごぼ天」と発音するのがネイティブ。
これを食べると「福岡に帰ったなあ」という気がする。
観光客なら「とんこつラーメン」とか「もつ鍋」とか「水炊き」とかで福岡を感じるのかもしれないけれど、生まれ育った人間としては「ごぼ天うどん」である。

九州を離れるまで、まさか他の地方ではごぼ天うどんがないなんて想像もつかなかった。関東では肉うどんすらないところが少なくない。
肉うどんは関西では一般的だけど、福岡でごぼ天と肉うどんがないうどん屋(そば屋ではない)なんてまず想像できない。
ちなみに福岡では「天ぷらうどん」といえば通常「丸天」である。「丸天」というのは要するにさつま揚げのでっかくて丸いものを想像して頂きたい。あれがどんと載っているのが「天ぷらうどん」。
では、ごぼ天うどんはおでん種のごぼ天かというとこれが違う。こちらはごぼうを天ぷらにしたものが入っている。こうやって書いているとなんだかややこしくて他の地域の方に申し訳ない気になってくる。

しかしこのごぼ天うどんがうまいんだな。
店によって違いはあるけど、大抵はごぼうをきんぴら風ではなく、繊維に沿って薄く長さ5,6センチくらいにスライスしたものをてんぷらにする。
これをうどんに入れると、最初のうちはパリッと揚がっているのでシャクシャクの食感が実に香ばしい。食べ進めて行くにつれてごぼうの野趣あふれる香りと衣のアブラがつゆにまみれていく。よくダシの利いた九州風の薄口のつゆがしたたる天ぷらの衣、衣は柔らかくなってもパキパキした歯ごたえを失わないごぼうが噛みしめるたびに味を染み出す。そこで噛み疲れた歯をいたわるようにうどんがにょろん。すべての旨味がもう口中で渾然一体。
さらにここに肉を投入する「ごぼ天肉うどん」の場合、甘辛い肉汁の参加によってもう天国のレベルにまで幸福感が増すのだ。

なんで福岡にしかないんだろ(九州北部では割とあるけどね)。


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2009年03月01日

京都シリーズ 「C,A,D」

人のつながりとは面白いもので、京都のFさんご夫婦とは私の寄港地、コロンで偶然知り合いました。
奥さんが九州の方で、帰省をかねての旅行という感じだったのでしょうか。
爽やかで落ち着いた人柄にすっかり意気投合、「京都でまた会いましょう」という話になりました。

ご主人は会社員をやめて5年前からジーンズリペアの店を開いています。
錦市場のすぐそばにあるその店は、ミシンや糸、そしてたくさんのジーンズが整然と片付けられて、Fさんの人となりがよくわかります。
仕事の手を止めて歓待してくれたFさんが勧めてくれたのが、この「C,A,D」というBarです。

場所は祇園。あの「一力」のすぐ近くというまさに祇園ど真ん中。
当然町屋です。木の格子の向こうにグラスが並んでる。
ところが店内はオーセンティックな雰囲気ではなく、コンクリ打ちっ放しの床に、鉄のストール、カウンターはメタルを埋め込んだ無骨なものが2列に並んでいるという、ロックバーといっても不思議ではない感じ。
バーテンダーのMさんは30代半ばくらいの温厚そうだけど意志の強そうなしっかりとした顔立ち。
グラスを重ねるうちにすっかり打ち解け、携帯番号を交換する頃にはすっかりいつもの酔っぱらいに。
と、「こんばんはー」と入ってきた客をみると、舞妓さんが二人。
振り袖に白塗りのそのままの舞妓さんがカウンターに腰を下ろしてます。
やはり仕事のあとそのまま寄る舞妓さんや芸妓さんが多いそうですが、「素」の(すっぴんのではない)舞妓さんたちに会える珍しい機会となりました。
舞妓さんと言えばそりゃもう日本酒でお猪口でしょ、というイメージですが、ここはバー。オールドファッションドグラスを片手にウォッカなんぞをくいっとあおり、「ねえ、今ね、インドに行ってみたいの」などと普通にはしゃいでいる姿は、やっぱり普通の女の子。

ディープな京都、知れば知るほど面白い。




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2009年02月27日

京都シリーズ 「蜂巣」

さて、翌日の晩ご飯はうって変わって「おばんざい」。
おばんざいというのは京都の家庭料理の筈で、料亭などと違って気取らないのが良さだったのだけど、最近の京都観光ブームの影響か「紹介がないとダメ」という店が増えてきた。割烹と同じ道をたどってるみたい。
まあでもこれ、わからないでもないんですよね。関東みたいに料理はまずいけど話題作りはうまいみたいな店がごまんとあって適当に客が散らばっててくれるような場所ならともかく、それ以外の都市では店の評価=味という基本(京都の場合、それに歴史とか建物とかのオプションがつくんだけど)が厳然とある。そういうところに、ガイドブックだけみてやってくる客がわんさか増えたら店も他の客もやってらんない、というのはわかる。

というわけでおばんざい「蜂巣」。
二条城近くの油小路の目立たないところにひっそりあります。
頂きましたもの。

(突き出し)ほうずきなど4点と、長芋のお汁

・生麩の出汁焼 ・はりはり鍋 ・エビの湯葉揚げ ・風呂吹き蕪
・鰯の生姜煮  ・豚と白菜の味噌煮 ・へしこ などなど。

まず、突き出しの長芋のお汁がいい。すり下ろした長芋をお澄ましに合わせてるんだけど、いい出汁が薫っているところに喉が焼けるほど熱くてしっかりと味のある長芋が流れ込んでくる。優しく胃を刺激して急激に腹が減ってくる。

で、生麩でビールなど頂いているところにはりはり鍋がやってくる。ぐつぐつの鍋じゃなくて、織部風の大きな器によそわれて出てくる。クジラはさえずりのみ。結構たっぷり。
小ぶりのれんげで水菜ごと掬ってちみちみやってると強烈に日本酒が飲みたくなってビールからチェンジ。スープがうまいよお。この汁だけで日本酒がいけちゃう。最初は感じないんだけど、山椒が利いていてあとから舌に来るのもまたいい。
もう次々来るもの何でもうまい。うまいんだけど、特筆すべきは風呂吹き蕪。
私、カブとブロッコリーは煮すぎたら食えたもんじゃないと思ってましたが、この蕪は想像を絶してました。
もう箸でつかめるぎりぎりの柔らかさ。つかむと言うより掬う。
ぐずぐずのカブなんて普通は食べられたものじゃない。なのにこれは違う。ものすごく柔らかいんだけど、ぐずぐずじゃない。ふわりとした口当たり。なめらかに口の中で溶けてカブと出汁、そして合わせ味噌のうまみだけが残る。
「なにこれ?」と料理人のMさんもしばし絶句。
しばらく思案しながら、Mさんが「多分こうじゃないか」と作り方を説明してくれました。
まずさっとあく抜きしたカブを煮るんじゃなくて蒸す。ある程度柔らかくなったら、冷ましたあと、同じ温度のだし汁の中に浸す。1日かけてじっくり浸してやる。で、だし汁を取り込んだカブをもう一度軽く蒸してやる。
まあ手間の嵐ですが、そのあたりがおばんざいの真骨頂。
Mさん、店の人の目を盗んで蕪のだし汁をぐいっと口に含み研究を忘れません。

そんなに広いお店じゃないので、あっというまに満席。常連らしい人たちで大賑わい。
やっぱりこういう店はそっとして置いて欲しいよな。



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2009年02月24日

京都シリーズ 「梅むら」

3日間、京都に行ってました。
男3人古都の旅というなんだか微妙な旅ですが、気が置けない仲間たちという点では、年明けからかなり忙しい日が続いたのでいい息抜きです。
一緒に行ったのは腕利きの料理人と飲食店の店長というなかなか京都をめぐるにはいい相棒。でもってこの二人が見かけコワモテ。外見だけなら間違いなく4、5人は殺してるだろという迫力満点で(本当はとても優しく親切)、まあ私は水戸黄門状態でどこに行くのも安心、というわけであります。

京都は何度か行っていますが、行くたびに何となく好きになってくると言う場所です。京都と自分との関わりが出来てくるにつれて街が楽しくなるという旅の基本みたいなのを再発見させてくれるのかなと思うと、なるほどそれが京都の楽しさかななどと妙に納得しました。

初日は京料理「梅むら」で晩ご飯。
伊藤博文が常宿だったという旅館を、料亭風に改造したという京都ならではお店。なんと言っても伊藤博文だからね。
見逃しそうな狭い入り口に、古い看板。
ところがそこを覗くとずっと細い小路が続く。明るすぎず暗すぎず照明が工夫された玉砂利と踏み石の細い道を歩いているだけでもう「参った」という気分になる。たまたま小雨が降っていたりしたもんだからますます雰囲気に呑まれそう。

引き戸を開くと大きな玄関に生け花。廊下がまた古い。ウグイス張りどころじゃない。もうニワトリ張り。でもぴかぴかに黒光りしている。
通された一番奥の12畳くらいありそうな部屋は、鴨川がきれいに見えて川床もしつらえてある。これまた大きな床の間には春を先取りしたような生け花に掛け軸。
反対の丸窓の向こうはしだれ桜(まだ咲いてないけど)。
あとで聞くと、まさにここが伊藤博文愛着の部屋だったそう。

「ビールを」と言うと「何本ですか?」などと無粋なことは言わず、3人のところにちゃんと2本持ってくる。
途中、料理が出てくるスピードが少し早く感じたので、お姉さんが部屋を出る間際に「少しペースを」とひとこと言ったら、次から丁度いいペースになった。3人とも客としては若い方なので気を遣って早くしてくれていたような気もする。

雰囲気、サービスに比べてちょっとアレなのが料理。もちろんまずくはない。でもすごく美味しいかというとそうでもない。品数はとても多くていいんだけど、美味しいものもあるし、「うーん」というのもある。料理人の連れは「ムラがある」と言っていた。

しかしこの料亭と見まごうばかりの雰囲気に接客、そして歴史まで付いてて京都コストパフォーマンスは高いと思う。
だって私たち、日本酒1升呑み上げて、3人で6万円からおつりが来たんだからね。
これは京都のこういう高級割烹としては破格の安さだと思う。
お姉さんたちの接客もフランクで緊張を呼ばない。
知っておくと重宝する店。




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2009年01月29日

寝酒っていいものだね

1週間で原稿100枚というハメになったのは、降ってわいた災難に見舞われたようなものだと思っていたら、実はそうではなかった事が判明。
原稿書きのため、前に書いたことを参照しようと、封も切らずに置いていた前号の掲載誌の封筒を開けたら、一枚の紙が出てきたのだ。
「次号の〆切りは一月末日です」……。ちゃんと書いてあるorz

ま、ともかくこの3日、昼は仕事で夜も原稿書きであります。
運良く今週は夜8時過ぎくらいから原稿に向かえるのでそこからぶっ続けで5、6時間。休憩も気分転換も一切なし。
その結果3日目のきょうまでに80枚達成。
うおーっ、頂上が見えてきたぞー!

ただ、さすがに根を詰めてひたすら書いていると深夜2時、3時に頭が昂奮して寝付けない。
「ああ、あそこはこうかけばよかったなあ、ここはこうだよなあ……」とか。
なので、寝酒が必要。
というか寝酒の意味が初めて分かったような気がする。
とりあえず、ラスティ・ネールなどを引っかけて、深夜のほっとタイムなのでした。

とにかくもうちょっと。

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2009年01月09日

怒濤の新年と初怒り

年が明けて間もなく10日。
3日から仕事に復帰してずっと働いているわけだけど、とにかく忙しかった。夜は夜で新年の挨拶だなんだと帰れない。
まあ、特に帰るところがあるわけでもないという(もちろんあるんだけど)気易さもあって、明け方2時間ほどうとうとして出勤→早朝3時間ほどうとうとして仕事場へ→日の出の頃布団にくるまって……という生活を一週間続けたらさすがに疲れた。もう若くないんだなあ。

新年早々のこの欄に「ことしは大波瀾万万丈な年」などと書いたけど、初っ端からこれじゃ身体が持たない。

ところで話はがらりと変わりますが、昨夜昔のサザンコンフォートと今のサザンコンフォートを飲み比べさせて貰った。
これがもう、昔の方が美味いのなんの。深い香り、こくのある甘み、殆ど別の酒である。
でも昔の方はもうまず手に入らない。
バーボンもそうだけど、効率と販売至上主義(ライトな酒が「トレンド」みたいな)が、頑固一徹だったはずのアルコール文化も蝕みはじめているのかと思うと、あまりの情け無さに涙が出てくる年の始まりでした。

で、このサザンコンフォートにアマレットをあわせると「シシリアン・キス」というカクテルになるそうだ。
本当に甘いカクテルなんだけれど、下品に流れずほっとする香り。疲れているときのベストカクテル。



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2009年01月05日

この先30年

昨夜のこと。
20年近く世話になっているマスターが酒を奢ってくれた。
カウンターに坐って、ぼーっとバーボンロックなどを飲んでいたら、目の前に大振りのショットグラスがぽん、と置かれた。
マスターは何も言わず、笑っている。
軽く香りをかぐと、優しい。
脣を湿らすようにして口に含むと、柔らかく華やかな香りに包まれる。
スコッチだ。それも飛び切りの。

(あててごらん)というようにマスターが見ているので、思い付くままにいくつか挙げてみたが、どれも違った。
「30年物なのにわからんかな?」という一言ではっとした。
「バランタイン?」
そしてカウンターの上に置かれたのは紛うことなきバランタインの30年。

「初めて飲んだよ」
そういうと、マスターは「うまかろ」と言って私の目を見た。
「これから30年、決めたことは続けないかんよ」
そういってまた笑った。

ありがと。
マスターの気持ちに応えられるかどうか自信はないけど、このバランタインの味は忘れない。


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2008年12月28日

〆は葉巻で

担当していた特番の放送も無事終わって、今年も終わり。
打ち上げを兼ねた忘年会で大暴れして痛飲して、やってきました毎年の儀式。
仕事納めの日の最後は葉巻で締めると決めているのだ。
煙草をやめて随分経つけれども、葉巻は煙を吸い込まないし、何より一年に一度のお楽しみということでこれをやらないとしっくり来ない。
まだまだ盛り上がっている仕事仲間から一時離脱し、おきまりのBarへ。
今年はこの個人的な習慣を話してしまったところ、2件のBarが葉巻を用意してくれているという大変有り難いことになりました。
なので葉巻のハシゴ。
年に一回くらいでは葉巻に詳しくなることもないんだけれど、それぞれに個性的でうまい葉巻でした。santeのFさん、colonのTさんに感謝。ありがとう。

と、今年はここで終わらない。
翌日、やはり馴染みの小料理屋さんにいくと「年末は葉巻ッスよね」と御主人。「え、まさか」ってなんとここでも葉巻が。
「しかし、和食の店で葉巻はアレでしょ」と遠慮すると、「いいです、大丈夫です」。
出来る限り他のお客さんの迷惑にならないように嗜みましたが、気持が沁みました。

3本の葉巻で一年の疲れを煙に流し、気持ちの良い香りだけが身体を包んでくれました。






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2008年12月25日

酒飲みのワイン知らず

人後に落ちない酒飲みなのでありますが、とんとワインには関心がありませんでした。
旨いワインはそりゃあるんだろうけど、とにかくイタリアンレストランとかビストロとかで飲まされるハウスワイン、グラスワインにはいつも辟易していたのであります。とにかくやたら酸っぱくて、直接ブドウの皮をなめているような渋味。こんなの飲みながら料理食べるくらいならビールで通した方がいいし、日本には日本酒という素晴らしい食中酒があるわけです。
てなことを思ってこれまでワインを避け続けてきました。

馬鹿でしたね、私。
飲まず嫌いというか、固定観念というか、いやあ知りもしないで偉そうなことをと反省しました。

「ドメーヌ・ド・ラス・プール コルトン・ブレッサンド グラン・クリュ2003」
ややこしい名前ですが(これもワイン嫌いの原因か)、昨日頂いたワインです。
これがもう、素晴らしい。
ワインの表現の仕方をろくすっぽ知らないのであんまり伝わらないかもしれませんが、最初の飲み口は、ブドウ畑の露が降りた蔓や葉っぱをイメージさせるような草や木の青い香り。でも青臭いというのとは全然違う。それが口の中で瞬時に果実味に変わって、こくんと喉に落ちると花束のような華やかな香りが鼻に立ち上ってくる。
口に含んだ感じも、飲ませてくれた人は「シルキー」と表現していましたが、まさになめらか。本当に比重が軽いような気がする。
酔い方も、お代わりを重ねてもぐいぐいくるような酔い方は全くせず、静かに何かが降り積もっていくように良い気持になってくる。
ワインって美味いものだったんですねえ。もっと早く知っていれば……。
いや、これからの私の財布のためには知らない方が良かったのか?

それにしてもいわゆるお店のハウスワイン、一番よく飲まれるはずのものなのだから、何とかするべきじゃないですか。
と強く思った一夜でした。

ああ、極楽の体験だったなあ(思い出すと頭がぽわーんとする)。


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2008年12月07日

謎の骨折と危険な酒

手を骨折してしまった。
左手の小指の付け根の下、手のひらに隠れた部分。中手骨というらしい。
レントゲンで見るときれいに真横一文字にスパンと折れている。
医者が言う。
「二ヶ月はかかりますね。もう少しずれてたら手術でしたよ。相当の力がかかったみたいですけど、どうしたんです?」
「それがそのう……」と私。
実は、わからないのだ。
骨折までしてわからないとは何事かと言われそうだけど、記憶が錯綜している。

昨日の朝、激痛で目覚めた。見ると左手がぱんぱんに腫れている。
「どうしたんだっけ……」記憶をたどる。
前の晩は飲みに行って深夜に帰ってきた。じゃあ飲んだ帰り?まさか喧嘩?
一瞬厭な想像が横切るが、すぐに記憶がよみがえる。
店からウチまで歩いて15分ほど。帰り道はすべて思い出せる。そもそもそんなに遅い時間じゃなかった。途中でコンビニに寄ったところで後輩から携帯に電話があって時計を見たんだ。日付が変わるか変わらないくらいだった。
ウチに着いて着替えて──脱いだものはきれいに片付けてある──レンタルしてあったDVDを見た。
そのうちに眠くなってきたので、ベッドの上に横になり……。
記憶がない。
次の記憶はベッドの脇で仁王立ちになっている私。左手に激痛が走っている。(なんで手が痛いんだ?)と思っていた記憶がある。だからきっとその直前に何かがあって……。
でもその後も記憶がない。次の記憶はもう朝である。
うーん、私は部屋の中で一体何をしたのだ。というより何が起きたんだ?

実はこの日飲んでいた酒というのがグラッパである。
私はグラッパには目がなくて、この日珍しいグラッパが入ったと聞いて飲ませて貰っていた。一杯で収まる訳もなく、別の種類のグラッパをあれこれと飲んでいた。
たまたまカウンターにグラッパをよく知らないお客さんがいて、「これは飲み過ぎると訳がわかんなくなっちゃう大変な酒なんですよ」とマスターが説明しているのを、私は「そんなことないよ」と笑っていたのであった。
で、調子に乗った私に、やはり調子に乗ったマスターが「グラッパでフィズって飲んだことあります?」と一言。
「ええっ、グラッパフィズ?、作って作って」と飲んでみたところが、これがうまい。フィズの爽快感はしっかりありながらグラッパの香りは少しも損なわれない。
「このカクテルって定番なの?」と聞く私に「ないですね」とマスター。
「でもこれうまいよね、なんで定番じゃないんだろ」

その答はわかったような気がする。
身をもって。

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2008年10月14日

いつの間にか秋だった

連休とは関係な商売とはいえ、秋祭りを横目に働くのも気が滅入ります。
んで、帰りに寄ったなじみのお店。

「竹鶴を」と頼んで、ぽんっと置かれたグラスに一口。
甘いのにうまい。ああ、働いて良かった。
だから酒がこんなにうまい・・・

「やっぱうまいねえ、これやねえ」と私。
「そりゃそうやろ」とマスター。
気づくとボトルがカウンターの上に。

「竹鶴35年」。

「え、ええーっ」

「こんなのもあるよ、飲み」と
ショットグラスに注ぐボトルには
「ニッカ シングルカスク モルトウィスキー 1985 bP5」のラベル。

「・・・・・・マスタ、ありがと」
酔いが回ったのか、なんか景色がにじむ。

30分後。
「やっぱうまいねえ、これやねえ」
「さっきから同じこといっとるやん、大丈夫か」
「大丈夫、けどもう帰るちゃん、お勘定」

なあ、一杯800円って、いいと。
ねえ、マスタ。

ありがと。

そんなことされたら泣いて帰らないかんちゃん。



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2008年09月16日

飲んで学んで驚いた休日

若手バーテンダーが腕を競うカクテル・コンテストに行ってきました。って、もちろん見学というか応援。バーテンダーじゃないし、だいたい若くないし。
なんですが、出場する選手に知り合いが複数いるので、一人だけ応援できないというのも辛い、というか八方美人ですな。

今回はスポンサーがアサヒなので、アブソリュートのフレーバーシリーズなどなどアサヒのイチオシのスピリッツを使いながらの戦いが繰り広げられました。
私このコンテスト観て初めて知ったんですが、ホテルのバーテンダーと街中のバーテンダーは流儀が違うんですな。いや、ホテルのバーマンは仕草がロボットみたいとか、髪を七三に分けてるとか、そういう違いは何となく感じてたんですが(おい)、メジャーを使うか使わないかと言うことなんです。
普通のバーテンダーはメジャーカップを使うけど、ホテルのバーテンダーは使わない(人が多い)。コンテストが終わった後に審査委員長のバーテンダーさんが総評で触れてて気づいたんですが、確かに言われてみればホテルのバーマンってメジャーカップ使わない気がするよなあ。
使わない方が所作がいいという訳でもなくて(たぶん)、どちらがいいというのは特にないと思うんですが、こういうコンテストはホテルのバーマンが強いのは一般的な傾向のようです。ネーミングからしてはっきり賞狙いをアピールしてたりするし。

しかし、今回2位3位のホテルのバーテンダーを抑えて優勝したのは、街中バーテンダーでおまけに女性。試技の時からカッコイイなと思っていましたが、あっさり優勝。おまけにアサヒビールの特別賞もダブル受賞。
バーテンダーも本格的に女性の時代の到来、なんて決まり切った言い方してもしょうがありません。何たって今回出場選手の3分の1近くが女性だったんですから。

それにしても、さっきも触れたコンテストの総評が面白かった。
今回のコンテストは一人のバーテンダーがオリジナルカクテルを3杯作るルールなんですが、普通のコンテストは5杯だそうです。3杯にしたのは「その方がより実践的だろう」と言うことだったんですが、総評では「3杯のカクテルを5杯の時と同じようにシェイクする選手が目立った」とお説教。つまり、シェイカーの中に入っている量が違うのだから、当然シェイクを変えないと水っぽくなってしまうということなのです。うーん、確かに。
その他にも、プロならではの細部にこだわった批評が展開されて素人としては感動モノでした。

さてコンテストの後はスポンサーのアサヒ・ニッカウィスキーセミナー。
大昔、ニッカに就活もしたことがあるので(本当)、ニッカの基礎知識はなくはないのですがやっぱりテイスティングが目当てであります。
今回のテイスティングは次の5種類。
1)余市12年ウッディ&ヴァニリック
2)余市12年ピーティ&ソルティ
3)シングルカスク宮城峡12年フルーティ&リッチ
4)シングルカスク宮城峡12年シェリー&スイート
5)シングルカフェグレーン12年

中でも白眉は新樽熟成の1)。個性の強い余市ならではと先生が自信を持って出しただけあって、うまい。「ウッディ」=森の香りなんですが、新樽臭くない。
うーん、市販はしてないみたいなんですが、ああ、呑みたい。もっと飲みたい。
あと、5)は、要するにグレーンなんですが、あの味も素っ気もないグレーンがこうまでうまいかと感じされるものでした。

さて、最後はチャリティカクテルパーティです。
今まで「カクテルパーティ」と名の付くパーティには何度か出たことはありますが、今回は本物。だって、本物のバーテンダーがわんさか集まって、作るのも飲むのもプロばっかという「カクテル」パーティなんですから。
ちなみにコンテストで入賞したカクテルも飲めることになっていたのですが、残念ながら人気がありすぎて僕は飲めませんでした。あっというまに100人くらい並ぶんだもん。だから感想はなし。今度お店に行って飲もう。
酒造会社やアルコールの輸入代理店さんのブースもずらりと並び、各社イチオシの酒が飲みホーダイ。もう天国ですなこりゃ。
中でも、日欧商事(イタリアの食材専門だと思う)のブースにずらりと並ぶグラッパの数々に感涙。素っ気ないデキャンタも何本か並んでるから、何かと聞いたら、「この秋から受注するグラッパ」とのことで、あれもこれもと片っ端から飲んでしまいました。うはは。

そして広い会場がすっかり酒くさい空気にずっぽりと包まれた頃、お約束のプレゼント抽選大会。子どもの頃からくじ運のカケラもない私は無視してひたすら飲んでいたところ、会場一杯に響き渡るのは当選番号のアナウンスではなく、私の名前。
(何か落とし物でもしてしまったのだろうか)と呼ぶ声に応えると、「ベストドレッサー賞の発表」っておい、冗談でしょう?!。
もう一人呼ばれた女性も心底驚いた表情でボー然としています。
着てるモノを人から褒められたなんて生まれて初めての経験で、マイク向けられたって何も話せません。情けないことこの上なし。っていうか、せめて10分前に教えてくれよお。

最後はなんだかよく分かりませんでしたが、楽しかったことは間違いない休日でした。

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2008年08月24日

エルミタージュ・ドゥ・タムラ

フレンチの名店として知られるエルミタージュ・ドゥ・タムラに行く機会がありました。
以前、オーナーシェフの田村良雄さんの著書を読んで、一度行ってみたいと思っていました。
素材重視の料理への姿勢はもちろんですが、文章から伝わる誠実で柔和な物腰が「ああ、この人の作る料理はうまいだろうなあ」と思わせるものがありました。

メニューは3種類のコースのみ。コース苦手、アラカルト重視派の私としては最初ちょっと抵抗がありましたが、著書を読んで納得。信頼のおける網元からしか魚介を仕入れないので、アラカルトとして定番メニューを揃えるのは無理がある。それより、その日入った食材でコースを組み立てる方がよいという考え。確かに立地を考えると正解だと思う。

コースは8000、12000、15000円の3種類。今回は12000円を頼みました。
1品目は「萩の鱧パスタ 黄色いガスパチョソース」。
ハモのすり身を塩のみでトコロテンの要領でパスタ状にし、ミョウガやトウガンとともに黄色いトマトを使ったガスパチョソースであえています。

お次は「茄子のジュレ仕立 ニンニク風味のエスプーマ」。
これは文章で説明するのはなかなか難しいのでありますが、白身の魚をコンソメのジュレでマリネし、そのまわりを焼きなすで包み、セルクルで形を整えたところにニンニク風味のエスプーマをたっぷりかけたもの。すこしニンニクが強いかなと思いました。

3品目は「鮎のサラダ キュウリソース」。
どこのアユかは説明されたけど忘れました。カリカリに焼いたアユにキュウリのソースって、ありふれてる!と思いますでしょうか。いやいやいや、これがそんじょそこらの皿ではありません。
アユの香りを損なわない程度に軽く燻製してあって、さらにパートフィローを巻いてかりっとした食感を高め、汁気たっぷりのキュウリのソースで食感が損なわれないようになっています。
ちなみに、たっぷりのサラダにはソースに使ったキュウリが丸ごと一本、二つに切ってごろんと皿にあわせてあって、丸かじりも楽しめます。田村シェフの「これだけうまいキュウリを使ってるんだぞ」という自信と遊び心が感じられます。

4品目は「萩のウニとランド産フォアグラのアンサンブル」。
これは絶品!ウニとフォアグラのコンビなんてうまくて当たり前だろと言われそうですが、うまいものはうまい。
ウニとフォアグラなのに、ちっともくどくない。ウニの潮の香りとフォアグラの甘みをオクラがつなぎ合わせて、もう天にも昇る心地で平らげました。

5品目は「桃のスープ」
タムラを夏に訪れるほとんどの客が楽しみにしていると思われる名品。
実をくりぬいた桃を凍らせて器にしており、桃の果肉の冷製スープと一緒にシャーベット状になったところを削りながら食べます。

6品目の魚、「真魚鰹のアジア風マリネ 野菜のピラフ添え」
真魚鰹の脂のノリ、皮パリ中しっとりの焼き加減、ソースの塩梅。言うことありません。
ソースは最初バルサミコかと思ったんですが、ニンニクの黒酢漬けを使ったものだそうです。
本日のベストディッシュ。

7品目の肉、「イタリア産子兎のロティ ロゼワインソースラヴェンダー風」
子ウサギの柔らかさと独特の軽いクセがロゼソースに包まれて、優しさと野趣が同居する逸品。

チーズ。
7種類くらいのお勧めの中から、マールでウオッシュしたエポワスや、脂肪分が通常の倍以上というクリーミーで濃厚なブリなど3種をチョイス。それまで白ワインを飲み続けていましたが、せっかくなのでマール(ブルゴーニュ)も注文。

デザート
3種類の中からチョイス。私はマンゴープリンココナッツソースを選びました。
コーヒーはエスプレッソをオーダー。

最後に。
メロンとメロンスープで〆でした。

実は最初にちょっとしたトラブルがありました。
前述のように1万2000円のコースを予約していたのですが、当日、着席するとどうもおかしい。
若いウエイターさんがコースメニューを持ってきたあと、「おきまりですか?」。
「予約の時にお願いしていますが?」と答えると、「すみません、言い方が適切でなかったです」となんだか分かったような分からないような返事。
で、渡されたコースメニューは、予約時に聞いたコースと比べてやや寂しい気がしたし、そもそも桃のスープがありません。聞くと「サイドオーダーになります」とのこと。では、と追加して、食事に入ったのですが、疑念は消えません。
で、結局途中で「このコースは予約したコースと違うのでは?」と尋ね、ようやく8000円のコースと取り違えられていたことが判明しました。
その後のウェイターさんの対処の仕方はそれほどスマートとは言えなかったのですが、フロアホステスを務める田村夫人が謝罪に来られ、最後には田村シェフご自身も来られてかえって恐縮しました。
タクシーに乗って店をあとにするまで田村夫人の細やかな気遣いは続き、初めての来店にもかかわらずゆっくりと会話を楽しむこともできました。

近年タムラは予約も取りにくく、有名になりすぎたのか、ネットでは厳しい意見を目にすることが多くなりました。
しかし私としてはやはり今も最高レベルのフレンチだと思います。
野菜をはじめとする旬の素材の数々(旬以外のものは全く出てこない)は文句の付けようがありませんし、その素材を最大限生かすための想像力は生き生きとして、それを実現するための技術は申し分ありません。
1年に1回訪れたい、大切な店です。

ラベル:フレンチ
posted by 紅灯 at 20:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月15日

ライウイスキー23年

貴重なウイスキーを飲みました。
その名は「リッテンハウス23年シングルバレルライウイスキー」。
詳しい説明はこちらを見ていただくとして、要するにライウイスキーの23年ものです。
「ライウイスキー」と「23年」。
並べてみてもピンと来ません。
「日本酒」と「古酒」というくらいピンと来ない。
バーボンですら20年以上なんて冗談のようなものなのに、ましてライ。
なんだかこれだけでもう、心を込めてライウイスキーを大切に扱ってる人たちがいるんだなあ、という気がしませんか。
でもって、ちゃんと日本酒にも古酒があり、それが大変にとぎすまされているように、この23年のリッテンハウスも見事なお酒でした。
なんと言ってもその香り。鼻をグラスに近づけると、立ち上ってくるのはまるでマールかブランデー。甘く華やかな香りです。しばらく香りだけかいで満足。でもやっぱり酒なので、グラスを傾け口に含むと、おおっとびっくり。いきなり目が覚めました。口中にはがつんとライウィスキーの味。当たり前です。当たり前ですが、あまりに華やかな香りと、洗練されてはいますが野趣あふれる味が脳のなかでうまく整理できない感じ。おもしろいです。ちょっとした初体験ですね、これは。
思いついて少し水で割ってみることにしました。「このバカモンがぁ!」という方、お許しを。だってやってみたかったんだもん。少し加水すると香りが甘やかになりそうじゃないですか。
でもさすがにそのまま水を入れるのはもったいないので、ちゃんとマスターは別のグラスと水をくれました。
で、ウィスキーと水を少量ずついれ、よく混ぜて、いただきます。
・・・・・・・。おお、予想どおりなんと甘やかな香り。これがウィスキーだろうか?
と、喜び勇んでくいっとグラスを傾けると。
おや。おやや。
さっきまでのあの重厚なライウィスキーの芳醇さはどこへやら。ほんの少し加水しただけなのに、実になんとも痩せた味になってしまいました。正直、美味しくない。
その後はストレートに戻ったのはいうまでもありませんが、うーむ、面白い酒だなあ。

よい子は余りまねしてはいけませんが(っていうかもったいないよな)、美味しく楽しいライウィスキー23年でございました。
posted by 紅灯 at 15:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月27日

17年ぶりに

まだ私が駆けだしだった時代に知り合った、同じ業界の先輩と飲んだ。
最後に別れたのが17年前だ。だけどちょっと体格が良くなった点以外はそんなに変わらない。
今は福岡で管理職をしているその先輩、仮にAさんとするけれど、私の知るAさんは温厚で優しげな青年、という印象だったが、今は鬼で知られる存在らしい。
でも私への接し方は当時のままなので、私には今ひとつピンと来ない。きっとそういうものなのだろうと何となく納得しながら杯を重ねた。
1軒目、2軒目ときて3軒目どうしようというところで、Aさんがある店に行きたいと店の名前を出した。
その名前を聞いて、私のこの数年間の疑問が氷解。実は熊本に戻って以来、夜の繁華街を歩いていると、とある雑居ビルの1階にあるスナックの看板にどうも見覚えがある。前回熊本に住んでいた頃に行っていたような気がするのだが、しかし覚えがない。なので入るに入れず首をかしげるばかりだったのだが、そうか、Aさんと一緒に行ってた店だったんだ。
店までたどり着き、ちょっとのぞくと、結婚式の3次会か4次会が終わりかけみたいな雰囲気で大変込んでる。騒然としていて座れたとしても、「どうもお久しぶりです、実は昔」なんて話を切り出せるような雰囲気でもなさそう。
二人して戸口に立って(タイミング悪いなあ)と顔を見合わせたその時、カウンターの奥で忙しそうに洗い物などを片付けていたママさんがこちらをちらり。
「あら、Aさん紅灯ちゃんひさしぶり、そこ空いてるけん、座りぃ」
その言い方が、まるで一週間ぶりぐらいかのような自然な言い方だったので僕らは二度びっくり。思わずぎょっとして、「あの17年ぶりくらいなんですけど…」と座るのも忘れて言いかけると、ママさん、「知っとうよぉ、どうしたんね今日は。そこ早よ座り」とにこり。
で、おしぼりなどもらいつつ、かいつまんで話をしていると、「一度か二度しか来てないわけじゃなし、忘れるもんね」とぴしゃり。「Aさんも紅灯ちゃんも変わらんね」。
僕だけ「ちゃん」づけなのは、当時ぺーぺーの新人だったのでそう呼ばれていたのが17年の時間を無視して蘇ったらしい。
このお店、今年で開店して25年くらい経つらしいんだけど、浮き沈みの激しい業界で「続く店」というのがどんな店なのか、その片鱗を教えてもらった気がした夜でした。
ちなみに、オールドパーをがぶ飲みして一人2500円。17年ぶりのAさんと17年ぶりの店で多いにも盛り上がったのはいうまでもありません。
posted by 紅灯 at 17:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月23日

門司の牡蠣

なんだか時季外れの話題で申し訳ないけれども、牡蠣の話です。
福岡県は北九州市の門司の牡蠣をもらいまして、食べてみたらこれが旨いのなんの。
地元だから旨いっていってんだろうなんて思われそうですが、違います。
大体、昔の北九州の海を知ってる人間は、そこで採れた牡蠣を食べようなんて思わないって。
最近は門司の海どころか、小倉や新日鐵のある八幡の海もすっかりきれいになって、かつての「七つの海」ならぬ「七色の海」が嘘のよう。
門司では八〇年代くらいから牡蠣に取り組んでいるらしく、最近少しずつあちらこちらで取り上げられているとのこと。
まずなんと言っても大きい。小さいものでも直径七,八センチある。岩牡蠣に似ている。そして殻を外すと、身がぎっしり詰まってる。
まるでアコヤガイのようにぎっしり詰まってて、持ち重りがする。
そしてなんといっても、きれいなんです。
普通牡蠣ってのは、大根おろしでもみ洗いして汚れを落とすけれど、この牡蠣はそんな手間は全く必要ない。
私、殻を外した牡蠣をそのまま食べるのは実は苦手で、その理由は、大根おろしで丁寧に洗った牡蠣の方が絶対に旨いと思っているからなんだけど、この牡蠣は殻を外してすぐに食べて十分に旨い。生牡蠣が苦手な人っていうのは、実は汚れの部分についている生臭さが原因であることが多いんですが、この牡蠣にはそれがない。

なのでいろんな食べ方ができちゃう。
とりあえずカキしゃぶ
うちのは地鶏のモモ肉と昆布でだしを取った中にさっとくぐらせます。ほんの「しゃぶ、しゃぶ」程度でさっと引き上げ、ポン酢で頂きます。箸休めに鶏モモつまんだりしてね。

で、お次は中華風に牡蠣の清蒸。これは殻から外した生牡蠣にシャンツアイと三つ葉を載せ、火がつく直前ぐらいに熱したごま油をジャアアアとかけ回す。

和風、中華風ときて、お次は洋風。いきなりイギリスに飛びます。
牡蠣をオリーブオイルで軽くソテーし、上からスコッチウイスキーをややたっぷりめに振りかけます。レモンをそえて頂くと、それまでとはまた全く違う牡蠣の味を楽しめます。

最後はもちろん、牡蠣飯でごちそうさま。

門司の牡蠣も、もうそろそろシーズンは終わりだそうで、来年の楽しみが一つ増えました。
posted by 紅灯 at 21:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月21日

寿司の旨さと年齢の関係

とある寿司屋に行きました。
あんまりいいところなんで、名前を書くのはやめようかとも思ったんですが、熊本市内からも割と離れているし、そもそもそんな影響力のあるブログでもないので、紹介します。
「正六」というお店です。
こちらも絶品の料理をさくさくっと作ってしまう私のお気に入りの店(「疲労回復」の回をご参照)のご主人が連れてってくれました。
カウンターに座ると、息子らしい若い職人さんと、60がらみくらいのご主人。
この主人がいかにも寿司屋の主人というか、ガンコオヤジを絵に描いた風な雰囲気です。寿司屋のカウンターに座って「怖いぞ」と思ったのは久しぶり。
ビールで乾杯し、おつまみに刺身をおまかせ(というか、「何にする?」「あ、最初はつまみで・・・」「あいよ」という具合で、自動的におまかせになったのです)。いきなり中トロが出てきてびっくりしたものの、そのあとイカの細切りをごまとゆず胡椒であえたものがうまい。ウニは天草のもの。厚切りのアワビは塩をのせ、歯ごたえが絶品。いわゆる高級ネタが並んだのはこちらが初めてなせいだと思う。

そろそろ握ってもらおうかなあと思っていたところに、穴子の白焼き。
「この時期だから、たいしてうまくねえけどな」のセリフ付き。うらうら、怖いでしょって、楽しんでますが。
で、この穴子がうまくないどころか、もう絶品なんですよ。かすかにたれを塗って焼いたものにわさびをのせているんですが、このたれと焼き加減とわさびの加減がもう絶妙。口に入れると「ああ、穴子ってのはこんなにうまかったんだよなあ」と実感させる逸品です。この時期の穴子をここまで食わせるのか!!といきなり海原雄山状態。
「これ、うまい!」と思わず声が大きくなったら、ご主人ちらりとこちらをみて、「うめえわきゃ、ねんだよ」とぼそり。でも顔が照れてる。かわいいじゃないかおやじ。

このあとは食欲に火がついて、もうとまらない。
赤貝がまたうまい。見事なオレンジ色に思わず見とれて食べるのを忘れるほど。口中に投入しても、生臭さなんぞ派あるわけはなく、赤貝独特のさわやかな春の香りが鼻に抜けていくんですな。
「うまい、うまいよお」などと感激していると、頼んでない寿司がそっと出てきました。なんと、先ほどの穴子の白焼きを握ったヤツです。ご主人がうつむきがちにぼそっと一言。
「シャリ付きで、どうぞ」
くーっ、格好いいぞお!。

そろそろ締めにかんぴょう巻きでもと考えていると(私締めはわさびをきかせたかんぴょう巻きと決めてるんです。でも最近かんぴょう巻き出さないところが多くて。かんぴょうって安いのに手間かかるからね)、「お客さん、サビ巻き、いく?」。
「もちろん!」と答えてすぐに頂いたものは、一見普通の海苔巻き。見た目で違うのは、普通4本に切るとことを2本に切ってあって、長い。パクつこうとすると、若旦那が「一気にいかない方がいいスよ」とアドバイス。
慎重に囓ると、これがいい香り。わさびの辛さよりもまず口の中に広がるのは、かすかに青いわさびの鮮烈な香り。そしてシャクシャクとした歯触り。見ると、細い白髪ネギのように切ったわさびの茎が詰まっているんです。
「茎の方は辛さはねえんだ。香りだけ」というご主人の言葉どおり、これがサビ巻きなんだよねえという究極の巻物でした。
締めにはこれほどいいものもないんだけど、最大の欠点は、これ食べちゃうとまた一から食べたくなっちゃうと言うこと。

次第にご主人も口がなめらかになってきて、いろいろ話を聞かせてもらったんだけど、修業して店を持ったのは40を過ぎてからだそう。その理由は「若くて店持っても、客になめられるから」「歳を重ねて初めて寿司屋ってのはやれるんだと思う」
客も同じだと思うんですよね。いくら旨いモノが喰いたくても、寿司屋には寿司屋の流儀があるわけで、20代や30回ったくらいでカウンターに座っても、そもそも居心地が悪い。歳取って初めて分かる世界ってのも、やっぱりあると思う。
だからって、歳とっていればいいってもんじゃないのは当然ですが。

至福の寿司屋、発見。
歳を取るって幸せだなあ。
ラベル:寿司
posted by 紅灯 at 21:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月13日

休日は疲れを取るためにあるのです

今週は結構忙しくて、気がつくとブログの更新もろくにやってない。
このブログ、割と長文が多いので時間かけてると思われてるみたいだけど、実は長くてもせいぜい20分程度。でも今週はその時間もなかなかとれない有様で、何しろトイレにも行けない時もあったりする。膀胱炎で労災認められるんだろうか、しびん使えばいいじゃないかと言われるんだろうかなどと真剣に考えてしまった一週間でした。

でもきょうは久々の休日(もう終わっちゃったけど)。
充実した休日のための午前中から活動を、などという考えはなし。
なにしろ「明日は休みだ!」というわけで、杉本栄子さんを偲ぶ会に出席した他数人と熊本市で2次会。
1時過ぎからは最近寄ることができなかった我が寄港地コロンへ。
マスターに「疲れがとれるやつ頂戴」と無茶ぶりしたら、「はいよ」とあっさり。
何が出てくるんだろうとわくわくしていたら、予想を遙かに上回るものでした。
それは、マッカランとマッカランのカクテル。

ちゃんと説明しますと、アンバーというマッカランのリキュール(メイプルシロップの香りでかなり甘いがアルコール度数は高い)をフランベしてオンザロックのマッカランに注ぐものです。
このフランベが凄い。
グラスの中で燃やしたアンバーをかなりの高さからグラスへ注ぐんですが、この時青白い炎がまるで竜が下るようにロックグラスへ流れていくんですな。意表を突いた展開と、その美しさにいやもうびっくり。
だいたい普段そんなことしてくれそうにないし。それも男の客に。
完成したマッカラン&マッカランは、マッカランのコクとアンバーの甘み、氷で冷やされたマッカランと炎となって注がれたアンバーの熱が対流しながら口の中へ流れ込むおもしろさ。
アンバーの甘みが疲れた脳に効きそうだし、
「これは確かに疲れがふっとぶなあ」と思わず言うと、マスターにやりと笑って一言。
「酒の味もそうだけど、大仰な演出も効いたんじゃない?」

思い切り一本取られましたね。
思わず、「おお、すごい、きれい、うわーっっ」などと子どもみたいにはしゃいで、別のお客さんが、「俺、そんなのしてもらったことない」なんて言ってみんなで爆笑して、気づくと(疲れた‥‥うだうだ)なんていうのはすっかり忘れてました。
すごいなあ、バーテンダーという仕事はここまで考えるんだなあ、と完敗した(誰に?)夜でした。その後は結構飲み過ぎて記憶が怪しいんだけどね。

というわけで、昼頃までぐーぐー寝て、夜は夜でおとなしくしていようと思っていたら、夜の町の大先輩から一年半ぶりくらいのお誘いの電話が突然あったりして、結局午前様という休日でございました。

あすからまた労働じゃ
posted by 紅灯 at 01:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月30日

アードベッグなビール

黒ビールというとギネス。
ですが、最近はエビスの黒とか、サントリープレミアムの黒とか、本場に全く引けを取らない国産の黒ビールも出ていて嬉しい限り。ギネスと比べると、いずれも少し軽めでフルーティ、冷やして飲んだ方が美味しい気がします。
黒ビールは「大好き」という人と「苦手」という人が極端なような気がしますが、そもそもビールと黒ビールは基本的に別の飲み物と考えた方がいいのかもしれません。
ギネスは、缶ビールなどには「冷やして飲むように」と指示があります。しかし私としては基本的には常温で飲むものと思っています。
「ぬるいビールなんて飲めるか」という人もいるでしょうが、だからビールとは別物なんだってば。

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posted by 紅灯 at 20:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする