井上陽水のコンサートに行ってきた。
陽水さんはここ数年毎年ツアーをやっている。ことし還暦なんだが。
私が出かけたのは2008年ツアー最初となる北九州市のコンサート。今回は地元で幕開けだ。
さすがに地元ということで、井上陽水が登場するともうひっきりなしに声が飛ぶ。「陽水!」「よーすいー!」から、女性数人で声を合わせて「井上さーん!」まで。なんだか葛飾の映画館で寅さんの封切りを観てるみたい。
ひとしきり落ち着いたところで、オープニングは「Make-up Shadow」。
ところがこれが思わず?となってしまった。
演奏というより、音あわせというかエンジニアレベルの問題なんだろうけど、ボーカルと演奏の音のバランスがおかしい。歌がよく聞き取れないし、歌そのものの音が割れ気味でなんじゃこれは状態。ホールの前後左右ど真ん中の席だった私ですらこう思ったのだから、ひどい状態と言っていいと思う。
続く「娘がねじれる時」も似たような状況。
さすがにこれが最後まで続いたらちょっとなあと心配していたら、その後は修正されて大変聞きやすくなったけど、サウンドチェックどうしちゃったんだろう。
今回のツアーは、バンドは新メンバーでということなんだけど、スタッフも新しいのかなあ。ツアー初日だからいろいろあるとはいえ、陽水レベルでは考えられないような凡ミス。
そのせいか、陽水のMCも少なめだった。
「地元は関係者がたくさんいるのでやりにくい」と言ったのは、このミスのことを指していたのかもしれない。
あとは「サクラが満開の地元小倉でツアーを始められるのはうれしい」と繰り返すだけで、ほぼ演奏に集中していたステージだった。
それにしても生で聞く陽水の歌唱というのは凄い。つくづくと凄いと思った。
歌声は厚いのに澄み切っていてホールにびりびり響いてくる。キーは昔より多少は下がっているけれど、それを補って余りある声の張り。それも努力してめいっぱい歌っているという様子は少しもなくて、常に感じさせるのは「余裕」。
少し猫背気味に立った井上陽水が歌い出すと、その姿がどんどん大きく見えてくる。サングラスの向こうにいるのは舌なめずりして笑っている悪魔じゃないかと思わせるような迫力がある。
「ワインレッドの心」を「最初から僕の歌だよ」と言わんばかりに「普通に」歌い上げたあと、「リバーサイドホテル」「新しいラプソディー」と続けるともう最初の不調なんて完全にぬぐい去る陽水ワールドの到来。
いやいやいや、還暦を迎えようがこの歌い手は日本の宝。
今回のツアーは初めてのバンドということだったのだけど、以前のツアーをよく知らないので私には比較は出来ない。
ただ、ギター、ドラム(&パーカッション)、ベース、キーボードという最低限のユニットは、シンプルかつゴージャス。
特に目を引いていたのが紅一点のベース。女性のベースと言うだけで結構珍しいのに、いきなりアップライト・ベースで登場。まるでクラシック・コンサートのようなローブドレスで、ジャズベースのように激しく奏でるそのスタイルは当然注目を集めたけれど、演奏は十分に注目に応えるものだった。
終了後、「あのベース誰?」とささやく声がちらほら聞こえてきたけれど、そうだろうなあ、平均年齢50歳くらいのこの日の客層じゃ分からなくて当然。私だってあまりに意外な人物に最初は気づかなかった。
彼女はtokie。この名前でピンときた方は結構なロック好き。
長くニューヨークで活動し、帰国後はRIZE、ajico、LOSALIOSとロックど真ん中(だけど微妙にメジャーじゃない)を渡り歩き、現在はUNKIEでロック・インストというかなりマイナーな活動に挑戦中という、ばりばりのロックな方なのだ。
私はかつてBLANKEY JET CITYに入れあげていた頃があって、その流れでajico、LOSALIOSと聞いていると、かっこいい女性がベースをやっているじゃないですか。モデルみたいな容姿にアップライト・ベース。ずっと気になっていたお方ではあったのだけど、本人を生で見たのは初めて。持って行ったオペラグラスで見てたのは陽水じゃなくてtokie。もうきょうからファン。tokie命。
子どもの頃コントラバスをやっていただけあって、特徴的なのはアップライト・ベースと、エレキベースを弾き分けるその演奏スタイル。
井上陽水のステージでも、途中からエレキベースをぶら下げ(邪魔になるドレスのローブを後ろにひゅんと投げ上げる仕草がまたカッコいいんだこれが)、ギターと絡み合うように弾く。
定番中の定番「傘がない」は、このtokieのアップライトとギター、ドラムが存分に響きあい、オリジナルを十分に尊重しつつもまるでプログレっぽい重厚なロックになってた。
それにしても陽水、シブイところからいいミュージシャンを連れてくるよなあ。
還暦陽水、ロックの王道を進むのか?
(曲リスト)
1 Make-up Shadow
2 娘がねじれる時
3 POWER DOWN
4 闇夜の国から
5 ワインレッドの心
6 リバーサイドホテル
7 新しいラプソディー
8 The STANDARD
9 5月の別れ
10 背中まで45分
11 バレリーナ
12 嘘つきダイヤモンド
13 Just Fit
14 限りない欲望
15 氷の世界
16 傘がない
17 虹のできる訳
〜アンコール〜
18 心もよう
19 少年時代
20 夢の中へ
(2008年4月4日北九州市 ウェルシティ小倉)