2008年03月30日

アードベッグなビール

黒ビールというとギネス。
ですが、最近はエビスの黒とか、サントリープレミアムの黒とか、本場に全く引けを取らない国産の黒ビールも出ていて嬉しい限り。ギネスと比べると、いずれも少し軽めでフルーティ、冷やして飲んだ方が美味しい気がします。
黒ビールは「大好き」という人と「苦手」という人が極端なような気がしますが、そもそもビールと黒ビールは基本的に別の飲み物と考えた方がいいのかもしれません。
ギネスは、缶ビールなどには「冷やして飲むように」と指示があります。しかし私としては基本的には常温で飲むものと思っています。
「ぬるいビールなんて飲めるか」という人もいるでしょうが、だからビールとは別物なんだってば。

私にとってビールは喉の渇きを潤す「ドリンク」ですけれど、黒ビールは「食事」というイメージですな。
一度ギネスを常温のままグラスに静かに注いで一口味わって見てください。冷やしたものと全く違う味ですから。
一口啜ると、口の中には、はっきりと麦の味、パンの味が広がります。十分に発酵したパン生地から生まれる甘みが口いっぱいに広がり、焼きたてのパンを胃の腑に落とし込むような錯覚にとらわれます。
このときいつも頭に浮かぶのは、茨木のり子さんの詩「6月」。

「どこかに美しい村はないか 一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒
 鍬を立てかけ籠を置き 男も女も大きなジョッキをかたむける
 どこかに美しい街はないか 食べられる実をつけた街路樹が
 どこまでも続き すみれいろした夕暮は 若者のやさしいさざめきで満ち満ちる
 どこかに美しい人と人との力はないか 同じ時代をともに生きる 
 したしさとおかしさとそうして怒りが 鋭い力となって たちあらわれる」
                 (現代詩文庫「茨城のり子詩集」より)

初めてこの詩を読んだのは中学生くらいの頃だったのですが、この「一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒」の下りにがつんとやられました。もちろん黒ビールなんて飲んだことも見たこともなかったのに、目の前に情景が浮かぶんですな。人生の力強さが黒ビールに重ね合わされ、こういう強い大人になりたいものだと思いました。
以来、仕事で疲れて気弱になりそなときは、黒ビールを飲んでこの詩を思い出すわけであります。

さて、その黒ビールですが、少々珍しいものを飲んでみました。
「パラドックス アードベッグカスク スタウト」
あのアードベッグです。
並み居るアイラ・モルトの中でも、強烈なピートの香りで一頭地を抜く珠玉の酒です。私の連れ合いなどはグラスを近づけただけで顔をしかめ、一口啜ると「正露丸だ」と言い捨てて二度と飲もうとしないという何とも罰当たりなまねをしておりますが、いやいやいや、その強烈なピートとともに華やかな甘みと香りが顔を出す銘酒であります。
でもって、「カスク」で「スタウト」なわけであります。
つまり、この強烈なモルト・ウィスキーの樽(アードベッグ1991)で4ヶ月熟成させた黒ビールなわけです。

ビールなのにアードベッグ。一体どんな香りなんだ?という単純な好奇心だけで頼んでみました。
醸造元はスコットランドのブリュードッグ・ブルワリーというまだ新しいところですし、「まあ、話題作りだろうな」ということで、大きな期待はなし。総生産数が1800本しかないということで、3本だけ入手できました。

冷やした方がいいのかどうかわからなかったので、飲み比べ。
まずはよく冷やした方から。
真っ黒です。黒ビールだから当たり前ですが、なんだかピートの泥の色じゃないかなどと思ってしまいます。
グラスを鼻に近づけると、おおおっ、ピーティな潮の香り。これは確かにアードベッグ。
強烈な味が来るぞ来るぞと覚悟しつつ一口。
おや。おやおや?
う、うまいじゃないかぁこれ!。
ピートの香りがかすめた後は、華やかな甘みと香りがじゅわああっと広がります。そしてあと口には旨い黒ビールならではのパンの香り、麦の香ばしさが。
うまい、うまいぞ。ひょっとしたらギネスよりも旨いんじゃ。
などと騒いでいると、アードベッグ嫌いな私の連れ合いが手を伸ばして一口。
「あ、これ美味しい」
どうもこのビール、強烈な個性に隠れがちなアードベッグの華やかな部分を十分に引き出しているみたい。

あまり冷やしていない方は、全体に苦みがよく立っていて、アードベッグのピート臭とがぶり四つでビールのうまみをさらに引き立てています。どちらかといえば冷やしていない方が美味しいと思いますが、私の連れ合いのように強烈なピート臭は苦手という方は冷やした方がいいかもしれません。
何にしろ、ビール好きにも、スコッチ好きにも是非お勧めしたい一本でした。

とはいえ、次はいつ手にはいるのかまったくわからない酒なんですが。



posted by 紅灯 at 20:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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