2008年02月24日

匂いとセックス、そして映画(続)

今回は映画の内容に詳しく触れています。映画を観る前に内容を知りたくないという方はご注意を。

まず映画は、主人公が死刑判決を受けるところから始まります。
裁判所の外は大群衆が取り囲み、主人公を死刑にしろ!ぶち殺せ!と口々にののしっています。
一体何があったのか──。
有り体に言って、こうしたオープニングはよくあります。
ただ、目を引くのはそのデティールです。群衆シーンも裁判所のセットも実によくできている。かなりの部分をCGで補っているようなんですが、一目見た印象では細部の詰め方、たとえば石が濡れた感じなど非常にリアルです。
これはこの後さらに効果を発揮します。
映画は、主人公がこの世に生を受けたエピソードを描写します。
18世紀、世界でもっとも悪臭漂う都市と言われたパリの、さらに悪臭の詰め込まれた場所、腐りかけのタラなんぞが平然と並んでいる魚市場。垢だらけの女が屋台で魚をさばいている(んだか切り刻んでるんだか)と突然産気づき、全くあわてず、仁王立ちのままドサッと赤ん坊を産み落とすのです。当然へその緒は、持ってる出刃包丁でぶっつり。
声も上げず足下に転がる血まみれの新生児を母親はズザッと足で払いのけ、赤ん坊はさばいた魚の内臓だ何だがたまってる下水まで滑っていく。
ところが、仮死状態だった赤ん坊がここで息を吹き返すのです。
母親は逮捕され縛り首。そして主人公の人生が始まる・・・。

この赤ん坊がね、まるで本物の赤ん坊のようなんですよ。それも未熟児で生まれたような、胎児がようやく大きくなったような。当然CGのはずですが、あんまりといえばあんまりな描写。本当にドイツ人ときたら(以下自粛)。
まあこれ、原作そのままの映像化なんですが、普通、こんなところをリアルに映像化しません。初っ端からこんなの観て引かない客はいない。
でもこれが必要だったんですね。この非現実感すら漂うシーンを見せて、観客の現実感を奪う(この唐突な展開で客をずっこけさせるようなエピソードはこの後いくつも挿入される)。
そしてもっと大切なことは、「これ以上悪臭を嗅ぎたくない!」と観客に思わせること。
人間というのは面白いモノで、こんなイヤな場面に出くわすと、まるで死臭まで嗅いでしまったような気になってしまいます。一昔前なら、淑女がスクリーンに向かってハンケチを鼻に当てる場面ですね。人の脳というのは不思議なものです。
そうするともうなんだかたっぷりを匂いを嗅いだ気になって、このあと展開する、通りがかりの女の体臭に主人公が惹かれるシーンなんかは、もうさして抵抗がない。「そういうことなんだろうな」と何となく納得させられるわけです。まだ若いのに、老獪な監督であります。

そして我らが主人公は地獄のような生活から抜け出し、かつては著名だった調香師のもとで働き始めるのですが、この調香師がダスティン・ホフマン。
最近はもっぱら普通の役ばかりで、映画自体もうーん、てな感じが続くダスティン・ホフマンですが、考えてみれば御年70歳を超えたはず。まあ、演技の鬼と言われた昔と比べるのは酷だろうな、と思っていたのですが、いやいや、久しぶりにダスティン・ホフマンらしい演技を観ました。
怪演という言葉がぴったり。
俗物でプライドが高くて鼻持ちならなくて高慢で、でもなにがしかの才能は持っていて、今は才能が枯れかけていることを実はちゃんとわかっていて、小心者で、本当は常識人。そういう愛すべきキャラクターを見事に、楽しそうに演じています。
「なんでダスティン・ホフマンなの?」というキャスティングへの疑問をちらちら聞きましたが、うーん、最近の若い映画ファンはピンとこないんだろうなあ。ダスティン・ホフマンといえば、「鼻がでかい」というギャグ。「クレイマー・クレイマー」だったかな、「お父さんの鼻くらいおおきい?」とダスティン・ホフマン演じる父親が息子に語りかける自虐ネタ(というか楽屋落ち)もありました。
まあ、このダスティン・ホフマンの演技だけでも十分に観る価値があります。

さて、調香の技術を身につけた主人公は、ある城塞都市へと旅立ち、そこで連続殺人をおっぱじめます。パリにいた頃から、いい匂いがする女を殺したり、猫で香料を作る実験をじたり、十分に行動がヘンだったので、観客は連続殺人をはじめても、別に驚きません(いいのか)。
映画の主人公に感情移入しながら観るタイプの人は、さすがにこの辺からついてこれなくなると思いますが、殺人の動機はもっとついていけません。
美女の体から抽出したエキスから香水を作って、それを13本集めたものをブレンドすると究極の香水が出来ると信じているのですから。

こうなると、日本人的には「?」です。
だって、彼は調香師ですよ。「香水」を作るのが仕事のはず。
それがいくら美しいからって、人殺して体臭を搾り取るって、それって香水じゃないだろう?
女の体臭嗅いで喜んでるって、そりゃただのヘンタイ。
というのが、まあ常識的な日本人の反応だと思うんです。
しかし、前回も書きましたが、欧米は「今から帰る。シャワー浴びないで」の世界です。
これはもう、香水というモノへの考え方が根本から違うと言うしかありません。「香水」=フェロモン。
香水というのは、単にそれだけの匂いを楽しむモノではなくて、体臭と相まって、その人その人独特の香りを醸し出す。そう考えるべきモノのようです。しかし日本人は体臭が元々薄いので、ひたすら香水オリジナルの匂いだけが鼻についちゃんですな。

そしてついに我らが主人公は、その究極の香水を完成させちゃいます。
ここから先のシーンはもう映画史上に間違いなく残ると思われる爆笑シーンの連続。
実際ドイツの映画館では、どよめきと爆笑が上がったといいます。
是非観ていただきたいので、詳しくは書きませんが、エンド近くのナレーションを一つ紹介しましょうかね。

「こうやって彼は、人類の歴史ではじめて、香りで世界を征服することを可能にしたのだ」

「香りで世界征服」ですよ。今までいろんな世界征服モノを観てきましたが、これは確かに初めてです。ケロロ小隊だってまだやってない気がする。凄い。ね、前回「すごい映画」としか言いようがないといった理由、わかってもらえましたでしょうか。

でもたぶん、日本は征服できないと思いますが。


ラベル:パフューム
posted by 紅灯 at 14:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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