2008年02月14日

追悼 ロイ・シャイダー

本来なら「男の自画像」の続きのはずなんですが、悲しい知らせが飛び込んできました。
ロイ・シャイダー氏が死去したというニュースです。
予定を変更して、この個性派俳優の追悼を少しばかり。
たぶん市川昆監督の死去を悼む記事やブログの方が圧倒的でしょうから。

死去を知らせる新聞記事はどれも小さな扱いでした。
まあ当然です。90年代以降は特にこれという主演作もなく、アメリカ本国はともかく、日本ではスターだったとは言えないでしょう。
演技派ではありましたが、名優とまでは行かない。アクションもそつなくこなしましたが、全く持ってアクションスターではない。では中途半端な俳優だったか?

いえいえ、この人ほど「存在感のある」映画俳優はなかなかいないでしょう。
「存在感のある」と「」をつけたのは、ただ存在感があるだけならいっぱいいるからです。要するに何らかの目立つ条件を備えていれば。スタローンだってシュワルツェネッガーだって勝新太郎だってトム・クルーズだって存在感はあるわけです。
でも、ロイ・シャイダーという人は、目立つ条件を何一つ持っていないのに存在感を振りまくことが出来た俳優でした。


その典型の一つが、出世作「ジョーズ」によく表れています。
「ジョーズ」は当時まだ駆け出しだったスピルバーグが全身全霊を込めて作り上げた映画です。今はキャスティングは監督と言うよりプロデューサーの仕事の範疇になっていますが、当時はまだまだ監督の権力の強い時代。スピルバーグのキャスティングは、まだ28歳の若造とは思えない重厚かつ豪華でした。
サメハンターのプロフェッショナルには、「マッチョな演技派」超ベテランのロバート・ショウ。
その対極、インテリのシティ派の海洋学者には、「アメリカン・グラフィティ」で当時人気爆発だったリチャード・ドレイファス。
しかしこの映画、主人公はその二人の間で苦悶する現地の警察署長でした。その役に抜擢されたのがロイ・シャイダー。当時シャイダーは「フレンチ・コネクション」で見いだされましたが、あくまでジーン・ハックマンの相手役という位置づけ。ロバート・ショウとリチャード・ドレイファスの二人に比べれば全く地味な存在でした。
おまけにその役柄。前述したように、マッチョなシャーク・ハンター、インテリ学者というわかりやすい役柄に挟まれて、彼が演じたのは、家族を愛し、仕事に責任感を感じ、うるさい二人の専門家の間で頭を悩ます、といういたって「常識的な」役。
にもかからわらず、「ジョーズ」では強烈な存在感を残しました。これだけ当たり前の人間を当たり前に演じて存在感を残す。まねできることではありません。悩む表情。苦悶のしぐさ。遠くを見る目つき。ちょっとしたジョークに笑う相貌。一つ一つがいかにもリアルで、一歩間違えば荒唐無稽な話になってしまうこの映画を成功させた最大の鍵は、ロイ・シャイダーのキャスティングにあったといっていいでしょう。
実際スピルバーグはその後90年代に自身がプロデュースしたTVシリーズ「シークエスト」で、シャイダーを主役に起用しています。

この後のシャイダーの出演作は、怒濤のラインナップです。
「マラソンマン」。
フリードキン版「恐怖の報酬」。
続編でスピルバーグでもないのに評価が高い「ジョーズ2」
そしてそして、ダンス映画の最高傑作「オール・ザット・ジャズ」。
ブロードウェイの表と裏?、天才振り付け師&舞台演出家&映画監督ボブ・フォッシーの伝記映画?
そんなことはどうでもいい。
この映画にあふれるダンスの魅力と恐ろしさ、エロスと爛れたセックス、猥雑さとアルコール、男気とワーカホリック、幻想と狂気をとにかく呆然とたっぷり楽しんでください。

かと思えば、「ブルーサンダー」では、孤高のヘリコプター乗りを、ジョン・バダム監督らしくきっちりB級映画の魅力をそのままに演じて見せます。敵役はこれまた個性派マルコム・マグダウェウル。アクション映画と思えない演技合戦もまた見所。
ちなみにこの映画、当然CGなどない頃なので、一部の特撮をのぞけばすべて実写。マンハッタンの高層ビル街を最新鋭の戦闘ヘリが縫うように飛ぶ。カッコいいです。

で、アクション映画路線復活?と思わせておいて、同じ年にメリル・ストリープと競演した「殺意の香り」で、哲学的サイコミステリーを演じてみせる。
一筋縄ではいかない俳優でした。

90年代以降のハリウッドのキーワードはわかりやすさです。
「こいつ、良いやつ?悪いやつ?」ってのが一目でわからないと良い映画とはいえないという単純化された世界。そこで少しずつシャイダーは活動の場をなくしていったように思います。
日本でシャイダーに近いタイプとすれば、寺田農、古尾谷雅人、寺尾聰、といった俳優をあげれば、そのたたずまいをわかってもらえるでしょうか。

地味だけれども、存在感あふれる男の魅力を漂わせたロイ・シャイダーは、2月10日、ガンのため亡くなりました。
75歳でした。

上に挙げた映画、どれも今見ても全く魅力が衰えない映画ばかりです。是非ご覧ください。


posted by 紅灯 at 03:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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