2008年01月11日

「千万人と雖も吾往かん」

「チッソ」というと「水俣病」。もうほとんど合い言葉です。
ですが「チッソなんてとっくに潰れたんじゃないの?」と思っていた人も少なくなかったみたいです。
潰れるどころか世界でも有数の企業に育っています。液晶原料のシェアトップで、あなたの携帯の液晶原料がチッソ謹製である可能性は7割くらいあります。
昔はプラスティック。今はPCや液晶テレビなど、チッソの製品に全く無関係に暮らしてきた日本人は皆無と言っていいんじゃないでしょうか。

このブログの前身「DAI'S PICKET FENCE」は実は「のび太の敷金返還奮戦記」だけではなくて、水俣病問題についても(たまに)取り上げていました。講義録なんかも載せることが出来て、報道テーマが偏りがちなマスコミにはやれないこともできたかなとそれなりに思っています。
環境問題はいろいろかまびすしいですが、半世紀以上も前に日本の企業が起こした世界最大の公害をいまだに解決できずにいるなんて、この国一体何やってるんだか。今も40代以上の3000人以上の人が認定を待っているんですよ。信じられます?

で、こうした状況をなんとかしようと、自民党と公明党が被害者の救済の方針をまとめました。これも実際はいろいろ問題があって、とても「救済」とはほど遠いものなんですが、それはこの際置いておきます。すったもんだあって何とかまとめたこの方針をチッソに示し、「これで解決するように」と言ったところ、チッソの会長はあっさり一言「イヤ」と言いました。
その理由というのが、「株主に説明できない」「会社は株主のもの」という、最近流行のオサレな物言いだったものだから、被害者も自民党も政府もみんなびっくりしちゃったわけです。これをニュースでみて、「チッソってまだあったんだあ」と思った方も少なくないようです。

そこまでが去年の話。で、新年あけました。チッソも社内報があって、会長が「年頭所感に代えて」という結構長い文章を書いています。
これを読んでみたら、実に面白い。この会長、技術系だけあって、物言いがストレート。これに比べたら去年の会見なんてまるっきりぬるい。

まず最初の方には、会社がどれだけ患者に補償を払ったかが詳細に書かれています。その補償契約というのも「多数の暴力的支援者の座り込み」「社長以下の会社代表が実に88時間監禁状態に置かれるという無法」「暴行を受け、けが人が絶えない有様」によって結ばされたとされていて、チッソとしては嫌々補償を結んでやったんだ、と思っているのがよくわかります。うーん、チッソの排水で認定患者だけでも今までに1300人が死んでいるんですが。それより社長か88時間交渉につきあわされたりこづき回されたりした方が怒りが大きいみたいでかなり怖い。

文章は続きます。
「会社の支出は、年々莫大な額に上るところとなりました」
「(国によるチッソの)支援方針は出されましたが、(略)きわめて厳しい内容でした」「それでも我が社は必死に頑張りました」「財務内容は、惨憺たるものとなりました」……。
公害を起こした張本人という意識がものすごく希薄なんです。造船不況とかそういうことで理不尽にひどい目にあったけれども、そこを何とか頑張ったんだ我が社は、っていうふうにしか読めません(ていうか、そういうことなんでしょうな)。

与党の方針を受け入れられない理由を改めて説明していますが、これもすごい。
「(救済の)対象者数が何程に上るか見当がつかない。この状態で支払を約束するのは無謀、何らかの支援は用意されても、既に返済できないほどの負債を抱えており、これ以上のツケを後の世代に残す訳には行かない」
おいおい、被害者がどんだけいるかわからんから金は出せんって、どんだけいるかわからんほどの被害者を出した企業が言っていいの?
これ以上のツケを残せないってアンタ、「返済できないほどの負債」を抱えたのは誰のせい?あ、そうか、患者が暴力をふるったせいなのね。

おまけにこの後、こういう会社の考え方には多くの支持があって、マスコミが書かないだけだとわざわざ言ってるんですこの人。
と学会会長の山本弘さん、ぜひトンデモ本大賞に推薦しますので、よろしくお願いします。

そして最後に見事なオチを決める驚愕の一文が私を待っていました。
「今、恐らくは、最後の正念場を迎えています。この際に大切なことは、特別なことではありません」「『千万人と言えどもわれ行かん』の気概を持って進もうではありませんか」。

チッソ会長が最後に引用した言葉は、孟子であります。
正しくは、孟子が孔子の教えを引用したもので「千万人と雖も吾往かん」と書きます。
その意味は──
「自らを反省し、正しくないと確信できたなら、相手が誰であれ恐れないわけにはいかない。しかし自分が正しいと確信できたなら、敵が一千万人であっても堂々と相手をするだろう」。
「えーっ」と声を上げた方いませんか。
どうやらチッソは、自らを検証し、その結果間違ったことをしてこなかったという結論に達しているようなのです。チッソに間違いはなく、正しい会社なので、国だろうと水俣病患者だろうと1000万人が束になろうとドンと来い、というわけなのです。

「千万の敵」とはチッソが作り出した幻影です。そもそもチッソに「敵」なんていないんですから。逆に患者にとってチッソは敵でしょうか?
答えは否です。被害者と加害者は、単なる敵と味方ではないことは自明です。
にもかかわらず、患者や国や政治家や熊本県を「敵」と位置づけ社員を鼓舞する公害企業。

チッソという会社に必要なのは、才に長けた軍師ではなく、良識ある企業経営に導く導師だと思います。


ラベル:水俣病
posted by 紅灯 at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 水俣病 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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