2008年09月22日

巨匠の夢

他人の夢の話を聞かされることほどつまんないことはないといいますな。
夢と言っても、将来の夢とか15年後の僕への手紙とかじゃなくて、よだれ垂らしながら見る夢の方。
「きのうさ、すっごいヘンな夢見ちゃってさ、全然知らない場所に立ってるんだけどそれが知ってる様な気がして・・・」なんて本人は一生懸命話してるんだけど相手には全然伝わりません。シュールな話を他人に話すのは怪談話より芸が要る。聞いてる方は何が何だかさっぱり分からないというのがせいぜいですな。

夢というのも人それぞれのようで、モノクロの夢を見る人もいるそうですが、私の場合、総天然色はもちろん、匂いも味も普通にあります。それどころか知覚痛覚の類も変わらずあるので、「これって夢かな、キュー」ってほっぺをつねるというのは通用しません。夢の中でしっかり痛いので。
だから、目が覚めた直後は「あ、夢だったのか」で済むのですが、数日経つと、「あれって夢だっけ、現実だっけ」と記憶が混乱することもたまにあります。
なので自分が殺される夢を見たときは、目が覚めた後も1時間くらい立ち直れません。肉体的にも痛みが残ってたりして(まあ、死ぬほどの痛みじゃないんだけど)。

もう一つの私の夢の特徴は、割とストーリーが充実していて、ハリウッド映画のアクションものみたいな展開が少なくありません。ふとしたことから国際謀略に巻き込まれて七転八倒、絶体絶命に追い詰められるも、知人友人の助けを得て反転攻勢、怒濤のクライマックスへ、てな上映時間2時間10分総制作費50億円みたいなの。
こういう夢だと途中で目が覚めても、(あ、続きが観たい)とか思ってもう一度寝ると、大抵はすんなり続きの世界に入っていけます。レンタルビデオを観てて、途中一時停止してビール取りに行ったりするような感覚ね。

とまあ、こういう夢を見ているうちふと思いました。
「一流の映画監督が見る夢って、やっぱり凄いのだろうか?」

だって自分の夢ですからね。構成もセットも思うまま、予算使い放題。現実には無理なカメラワークやCGに頼らなければ不可能な視覚効果でも、夢の中ならいくらでもできます。問題は、その構図や視覚効果、カメラワーク、ストーリーの発想ができるかどうかだけなんですから。一流の映画監督というのはその発想がオリジナルで無尽蔵な訳ですから、すべての現実的な条件が取り払われた夢の世界では、もうものすごい映画が毎晩映画監督の頭の中では上映されているのではなかろうかと思うわけです。でも人の夢は覗けない。でもみたい、スピルバーグの夢を覗いてみたいよお。

とまあ、そういうことは皆さん考えるようで、黒澤明が見た夢を映画化したというふれこみの「夢」なんかがすぐに思い出されますが、どうなんでしょうね。確かにストーリーからは解き放たれていますが、どこかで現実とのバランスを取ろうとして、その結果中途半端になった印象は否めません。むしろ「無駄に金遣ってる」と非難を浴びまくった「乱」の方が黒澤が自分の夢を忠実に映画化したんじゃないかという気もします。

さてさていつものように前置きが長くなりましたが、何の話かというと「ポニョ」を観てきたんです。「崖の谷のポニョ」じゃなくて「崖っぷちのポニョ」でもなくて「崖の上のポニョ」ね。
で、見終えた最初の感想が「これって宮崎駿の夢なんだろうなあ」と。

初期の頃の宮崎作品に比べて遥かにいい加減で緩くてご都合主義な世界観。
妙に歪んだ印象を与える手書きの絵。
全く無意味だけど、ひたすら次のカット次のシーンへ盛り上げていく効果はすばらしい、目先だけを追っているストーリー。
幸せな気分というか、発狂寸前というか、とどのつまり理解不能な色彩設定。

世界観を説明しようとか、ストーリーを破綻なく組み立てようとか、そういう普通の映画作りの努力はハナから放棄されています。これが「子ども向き映画」に設定されたのは、そうした説明努力を放棄しても許されるジャンルだからではないでしょうか。だから同じ作家による「子ども向け映画」といっても「トトロ」とは全く違うジャンルの映画になっている。
宮崎駿の映画作りは、描きたいシーン、描きたい絵を最初に描いて、そこからストーリーを服得たイメージふくらませていくという作法であることはよく知られていますし、そうした創作手法はそれほど珍しくもないですが、今回はもう、ひたすら描きたいモノだけを描き散らしたという印象です。

今回初めて宮崎駿が絵コンテに色を塗って指示をしたといいますが、当然です。あの映画の制作をアニメーションという集団作業の極地でやり通したのは奇跡じゃないかと思いますね。まさに独裁者宮崎駿の面目躍如。基本的に「崖の上のポニョ」というアニメーションは、一人ですべて描く芸術家肌のアニメーション作家が100年くらいかけて作るタイプの作品です。一体どんな映画になるのか、宮崎以外のスタッフは皆目見当が付かなかったのではないかと想像します。
今回鈴木プロデューサーは直前までCMを放送しない、CMを流しても内容には触れないという手法を取って話題を呼びましたが、あれはそうする以外に仕方がなかったのではないでしょうか。

「かわいい」とか「心が温まる」とかこの映画を観て本気でそう思うのか、わたしは不思議でたまりません。
子ども特有の強烈な生のエゴイズムが大量殺戮を引き起こす世界。そこでストーリーと関係なく巻き起こる近親相姦、といって悪ければ近親相克の隠喩暗喩の数々。愛情と憎悪が直截にロコツにぶつかり合う感情過多のエピソードが渦巻く混乱。次々に挿入される過剰なイメージの連続。まさに船酔いする映画。
「ポニョ、ポニョ♪」というあのえげつないほどにかわいらしさを強調したテーマ曲は、「これはヤバイ」と危惧した宮崎アニメの守護霊二人(鈴木・久石)が強引に「ほらこんなにかわいいんだよ、純粋無垢な映画なんだよ」という皮を被せて、世間をだまくらかそうとした策略ではないかと睨んでいます。

夢というのは、わかりやすい悪夢というのは、実は少ないものです。
目が覚めて何となく呆然となりながら、「あれは何だったんだろう」と釈然としないまま忘れていく。楽しかったのか、恐ろしかったのか。その境界が曖昧な世界。

こんな夢を毎晩見て、こんなイメージを体からあふれさせて生き続け、正気を保ち続けている宮崎駿というのは、やはり只者ではありません。
天才宮崎駿を改めて実感させる映画であることは間違いがありません。
前作「ハウル」で予兆はありましたが、ついに暴走を始めた宮崎駿、これからどこへ行くのか気になるところではあります。

教訓
「凡人の夢はつまらないが、巨匠の夢は恐ろしい」




posted by 紅灯 at 22:38| Comment(1) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
綺麗なブログですね♪
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Posted by miwako at 2008年09月23日 00:39
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