2008年09月01日

スターに会いたくて

集英社の映画雑誌「ロードショー」が休刊になるそうだ。
今までよく頑張ったというところかもしれない。
しかし、新聞などによると「ネットに押されて部数が減少し」ってことになっているけれど、それはちょっと違うんじゃないかなと思う。

「ロードショー」が35万部を売り上げたピークの記録は、スピルバーグの「E.T.」が公開された時だった。社会現象になりましたなあ。あのグロテスクなETのぬいぐるみがバカ売れしたんだから、女の子の「カワイイ!」は今も昔も軽くみるもんじゃありません。
あの頃僕は高校生。前売り買いましたよ、ET。好きだったクラスの女の子を誘おうと思って。
学校で誘おうと思うんだけど、1日ちらちら彼女を見るだけで、結局声もかけられずぐったりして帰宅。
よしこうなりゃ電話しかないと(当たり前)、勇気を奮い起こして夜8時(つまり2時間くらいどーしよーか電話の前で悩んでいたのね)、彼女の自宅に電話。

「もしもし紅灯ですよかったらET観ませんか前売りあるんですこれがなぜかたまたま来週の日曜日なんてどうですか都合が良ければ」
私の最初で最後のマシンガントークでした。
すると電話の向こうはしばし沈黙。あれ、と思って再び口を開きかけた瞬間、間髪入れず返事がありました。
「あ、妹のお友達かな?呼んできますね、妹」
その後本人に何話したかなんて憶えてるわけがない。顔どころか体中が燃えるように熱かったのだけは鮮明に覚えてるけど。たぶん40度以上は出てたな、あの時。
この一件以来、いまだに私は電話が嫌いです。
今のガキどもの恋愛が軽いのは携帯ですぐに連絡取れるからだ!なんて思うのはまあ、この世代のオッサンの共通項でしょうな。

「E.T.」はちゃんと二人で見に行きました。同じクラスの野郎と。
スピルバーグの映画の中ではそれほどいいとも思えなかったけど、まあたぶんそれは多分に個人的な遺恨が含まれているのかもしれない。
それより「E.T.」に関するいろんな情報はみんな「スクリーン」や「ロードショー」から学んだ。あ、「スクリーン」というのは近代映画社が出している雑誌。よく「ロードショー」と見分けが付かないなんて言われていたけど、「スクリーン」は戦前からある老舗で、「ロードショー」の方が後発にあたる。
老舗だけあって、「スクリーン」のほうが何となく垢抜けなかった。写真のレイアウトとか、フォントとか、写真のキャプションやコピーとか、全体に古くさい感じがした。中でも人名の表記が独特で、「アル・パシーノ」とか「スチーブン・スピルバーグ」とか。いわゆる老舗のこだわりがぷんぷん漂っていて、私は逆になんだかそう言うところに惹かれて「スクリーン」の方を愛読していた。
なんていって実はポルノ映画情報も「スクリーン」に載っていたからというのは大声では言えないがこれも大きな理由(「ロードショー」は途中でなくなった)。

この頃僕はイザベル・アジャーニーに恋いこがれていた。アジャーニーは当時既にフランスを代表する女優だったけれど、この頃フランスと言えば「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーが大ブレイク中。アジャーニみたいな渋めの女優にはなかなかスペースを裂いてくれないのが不満だった。
「スクリーン」も「ロードショー」も、要は「明星」の外タレ版みたいな雑誌なのでそれが当たり前なんだけど。
でも、アジャーニの映画なんて、アメリカで作った「ザ・ドライバー」以外はテレビの洋画劇場ではやらないし、田舎町に名画座なんてないし、あっても金もないし、とにかく情報がない。つまりご尊顔をあがめる機会もなかったんだね、グラビア雑誌以外には。

レンタルビデオという、チープなアイディアの割に映画に革命をもたらしたシステムはこのすぐ後に現れた。レンタルビデオは、映画作りとか、興業の形態とか、そういう映画産業の根本に大きな変化をもたらすことになったわけだが、その一方で、田舎の色気づいたガキの生活も変えた。

それまで「スクリーン」や「ロードショー」でテレビの洋画劇場や深夜劇場を一ヶ月先までチェックし、それでも好きな女優にあえなければグラビアでページを眺めて我慢していた坊主は、いつでもほんの数百円でアジャーニに会えることに気づいたのだった。
アジャーニだけじゃない。デニーロやホフマンの名作も、深夜にさんざんカットされ半分くらいしか残っておらずストーリーもよく分からなくなったものを大事にビデオにとって観る必要もなくなったのだ。ああ、なんてすばらしいんだ!

そして少年はさんざん世話になったチープなグラビア映画雑誌に背を向けた。
彼はミーハーな自分を卒業した気になって言い放った。
「あんなものは子どもが読む雑誌だ」

それからずいぶんと時が経ち、彼はあの頃の自分を慰めてくれた雑誌が一つ、姿を消すことを知った。
今彼は、映画をミーハーに楽しみたいと思ってる。
心の底から思っているのに、もうそれは実現できない歳になってしまった。
彼の手の中にあるのは、懐かしさだけ。
やっぱり、もう「スクリーン」を買うことはないだろう。


ラベル:ロードショー
posted by 紅灯 at 19:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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