おばんざいというのは京都の家庭料理の筈で、料亭などと違って気取らないのが良さだったのだけど、最近の京都観光ブームの影響か「紹介がないとダメ」という店が増えてきた。割烹と同じ道をたどってるみたい。
まあでもこれ、わからないでもないんですよね。関東みたいに料理はまずいけど話題作りはうまいみたいな店がごまんとあって適当に客が散らばっててくれるような場所ならともかく、それ以外の都市では店の評価=味という基本(京都の場合、それに歴史とか建物とかのオプションがつくんだけど)が厳然とある。そういうところに、ガイドブックだけみてやってくる客がわんさか増えたら店も他の客もやってらんない、というのはわかる。
というわけでおばんざい「蜂巣」。
二条城近くの油小路の目立たないところにひっそりあります。
頂きましたもの。
(突き出し)ほうずきなど4点と、長芋のお汁
・生麩の出汁焼 ・はりはり鍋 ・エビの湯葉揚げ ・風呂吹き蕪
・鰯の生姜煮 ・豚と白菜の味噌煮 ・へしこ などなど。
まず、突き出しの長芋のお汁がいい。すり下ろした長芋をお澄ましに合わせてるんだけど、いい出汁が薫っているところに喉が焼けるほど熱くてしっかりと味のある長芋が流れ込んでくる。優しく胃を刺激して急激に腹が減ってくる。
で、生麩でビールなど頂いているところにはりはり鍋がやってくる。ぐつぐつの鍋じゃなくて、織部風の大きな器によそわれて出てくる。クジラはさえずりのみ。結構たっぷり。
小ぶりのれんげで水菜ごと掬ってちみちみやってると強烈に日本酒が飲みたくなってビールからチェンジ。スープがうまいよお。この汁だけで日本酒がいけちゃう。最初は感じないんだけど、山椒が利いていてあとから舌に来るのもまたいい。
もう次々来るもの何でもうまい。うまいんだけど、特筆すべきは風呂吹き蕪。
私、カブとブロッコリーは煮すぎたら食えたもんじゃないと思ってましたが、この蕪は想像を絶してました。
もう箸でつかめるぎりぎりの柔らかさ。つかむと言うより掬う。
ぐずぐずのカブなんて普通は食べられたものじゃない。なのにこれは違う。ものすごく柔らかいんだけど、ぐずぐずじゃない。ふわりとした口当たり。なめらかに口の中で溶けてカブと出汁、そして合わせ味噌のうまみだけが残る。
「なにこれ?」と料理人のMさんもしばし絶句。
しばらく思案しながら、Mさんが「多分こうじゃないか」と作り方を説明してくれました。
まずさっとあく抜きしたカブを煮るんじゃなくて蒸す。ある程度柔らかくなったら、冷ましたあと、同じ温度のだし汁の中に浸す。1日かけてじっくり浸してやる。で、だし汁を取り込んだカブをもう一度軽く蒸してやる。
まあ手間の嵐ですが、そのあたりがおばんざいの真骨頂。
Mさん、店の人の目を盗んで蕪のだし汁をぐいっと口に含み研究を忘れません。
そんなに広いお店じゃないので、あっというまに満席。常連らしい人たちで大賑わい。
やっぱりこういう店はそっとして置いて欲しいよな。