2008年10月31日

秋の欲求不満リスト

月末までに100枚の原稿を抱えて最近忙しくもおとなしい生活を送っています。
本腰を入れて取りかかったのが2週間前くらいからで、昨日あたりようやくメドがたってきた。
そうすると調子に乗ってすぐに飲みに出たりするのが悪いクセなんだけど。連休のおかげで、月末の〆切が1日延びているので今日明日あさってで校正&推敲もできそうだし。

日がな一日本業&原稿書きに追われていると、要求不満がたまりにたまっていろんなことがしたくなる。試験前の中学生の頃と変わりませんな。
実際この季節は、特にエンタテインメント系の小説は年末のランキングを狙って目玉商品が並ぶので欲求不満もひとしおなのです。
今年のランキングの台風の目になりそうな湊かなえの「告白」も未読だし、東野圭吾のガリレオ長短編2連発も必読だし、西澤保彦の「スナッチ」も気になるし、柴田元幸訳で出たポール・オースターの「幻影の書」はめちゃめちゃ面白そうだし、コーマック・マッカーシーの「ロード」も当然読まにゃならんし、マッカーシーといえば「血と暴力の国」がそもそも今読みかけだし(一昨日は仕事の後深夜のバーのカウンターで読みふけるという暴挙に出た)、文庫落ちまで待っていた有栖川「乱鴉の島」(新書落ちだけど)は積読状態だし、積読といえば柴田元幸の新訳で話題のジャック・ロンドン「火を熾す」も、今頃だけどせっかく取り寄せたソーカルの「知の欺瞞」も、何よりせっかく全集で復刊が始まった広瀬正も全然手を付けないうちに四冊もたまってる(まあこれは一度は読んでるからいいんだけどね)。

早く原稿を仕上げなければ。

posted by 紅灯 at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月19日

風の日には歌を聴け

最近、ELLEGARDENのベスト盤をしつこく聞いている。
ベスト盤と言っても、休止宣言以降にリリースされた事実上の「総決算」アルバムなわけだが、それにしてももう新曲が聴けそうにないのが残念だ。
最近これほどクールで骨太でカッコよくで思いっきりロックなバンドはなかったと思う。ロックってのは技術ではないという使い古された言葉がぴったりくるバンドだったなあ。
もちろん決して技術が低い訳じゃなくむしろ相当に高度だけれど、今時信じられないくらいシンプルで音に飾り気がない。
ゴテゴテにデコレートされたJ-popやらJ-rockやらがひしめく中で、ELLEGARDENの疾走感は尋常じゃなかった。

このベスト盤は未収録曲などは入っていなくて買わなきゃ買わないで全く何の問題もないのだが(このすっきりとした商売気のなさ、割り切りの良さもELLEGARDENらしい)、彼らのより抜きの曲をまとめてこういう形で聞くとたまらないね。全力疾走でフルマラソンを駆け抜けるって感じ。
ほぼ制作順・発表順に収録されているので成長の軌跡もよくわかる。しかし初期の頃からその疾走感はほぼ完成されていたようだ。

この夏、彼らの休止宣言を伝える記事には「メンバーの間にモチベーションの差が生じた」とあったけれど、おそらく真実なんだと思う。あの疾走感、あのグルーブ感はひたすら「ロックが好き」というモチベーションからでしか生まれてこないだろうし、それが失われてしまえばもう飛ぶことはできないだろう。
風の日が来るのを静かに待ちたい。


雨の日には濡れて 晴れた日には乾いて
寒い日には震えてるのは当たり前だろ
次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる
そんなもんさ
         ──ELLEGARDEN「風の日」
ラベル:ELLEGARDEN
posted by 紅灯 at 19:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月14日

いつの間にか秋だった

連休とは関係な商売とはいえ、秋祭りを横目に働くのも気が滅入ります。
んで、帰りに寄ったなじみのお店。

「竹鶴を」と頼んで、ぽんっと置かれたグラスに一口。
甘いのにうまい。ああ、働いて良かった。
だから酒がこんなにうまい・・・

「やっぱうまいねえ、これやねえ」と私。
「そりゃそうやろ」とマスター。
気づくとボトルがカウンターの上に。

「竹鶴35年」。

「え、ええーっ」

「こんなのもあるよ、飲み」と
ショットグラスに注ぐボトルには
「ニッカ シングルカスク モルトウィスキー 1985 bP5」のラベル。

「・・・・・・マスタ、ありがと」
酔いが回ったのか、なんか景色がにじむ。

30分後。
「やっぱうまいねえ、これやねえ」
「さっきから同じこといっとるやん、大丈夫か」
「大丈夫、けどもう帰るちゃん、お勘定」

なあ、一杯800円って、いいと。
ねえ、マスタ。

ありがと。

そんなことされたら泣いて帰らないかんちゃん。



posted by 紅灯 at 00:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒・料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月08日

ブルースナイト

不思議なものでブログというものは、意外と書きたいことを書いてなかったりする。
よくこのブログで備忘録代わりに(というかブログというのは備忘録なんだろうな)ライブの感想などを書いているけれど、岡部鉄心バンドのことを今まで一度も書いてなかったことに気づいてしまった。
岡部鉄心さんというのは知る人ぞ知る博多のブルースマンで、ドラえもんの映画「のび太の宇宙小戦争」に出てくるパルチザンの自由同盟盟主のゲンブ氏そっくりのコワモテなんですが(って、誰もわかんない比喩だけどさ)、いったんギター持って唄い始めるともうこんなにサイコーなブルースマンはいないという方であります。
博多弁で語る「ラーメン屋の姉ちゃんの歌」は落涙必至。涙がしたたり落ちたバーカウンターにはもちろんバーボンのショットグラス。

ただ、ブルースライブ自体は珍しくも何ともないのでありますが、すでに10月6日で3回目を数える「岡部鉄心バンドブルースナイト」はなんと街場のバーで開かれているのであります。
ライブハウスではありません。フツーのバーです。それもカウンターオンリーの。

「そんなもん、できるわけないだろう。ボックス席もないならタダの流しのギターとどこが違うねん」と関西弁でつっこんだあなた、正解。
ドアとカウンターの間で鉄心さん、唄います。その横のスペースにドラムセット(おい)。さらに横にベース。簡単に言えばカウンターのお客さんの背後霊状態。
初めてバンド編成になった第2回目の時、私ドラムセットの隣でした。ライブハウス経験長いですが、バスドラの前で酒飲んだの初めてです。
ギターアンプはカウンターの上。アンプの前にはバーボングラス。

もう最高です。トーキングブルースって究極はこういうスタイルに行き着くんじゃないのかな。
トーキングブルースが自らの音楽の理想だと公言するガリレオ・福山雅治君がこれみたら長崎に帰省せずに熊本に来るぞ。
もうこれは必ず絶対に何が何でも続けて行っていただきたいと、これを呼んでいるであろう店のマスターにここで強く主張しておくわけであります。

と、それはおいといて。
このトーキングブルースナイトの第二回目から「ET」という女性ブルースシンガーが前座で登場するようになりました。
身長も手のひらもみんな小柄で、ギターがやたら大きく見える「女の子」です。
でも、ハンチングにちょっと大きめのシャツ姿できっちりブルースです。「天空の城ラピュタ」みたいと言えないこともありませんが。

これがいい。
まずギターがちゃんとしてる。若いブルースマンって、結構奏法なんかいい加減で「まず気合いから」みたいなところがあるんですが、彼女はちゃんとしてる。少なくともきちんと気を配って演奏してる。
唄も同じ。ブルースらしく自分に没入してるところとはちゃんとありつつ、どこか客観的に見ている。客観的になりすぎるとまたこれはブルースじゃなくなるんですが、そのバランスがいい。おそらく意識してるんじゃないけれども、聞いている客としては大変心地よい。
それはオリジナルの曲によく出てる。
何の派手さもないけど、「ブルースってこうだったよなあ」ってこんな子に教えられるのかという思い。
ブルースっていうのは本当は「含羞」を聞かせるものだったということを思い出させてくれる唄です。
特に「ゆっくり廻る」「街」の2曲は素晴らしい。

鉄心さん、彼女はそのうち大化けするんじゃないでしょうか?

彼女のhpは(携帯向けみたいだけど)http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=etinfo
オススメです。
ラベル:岡部鉄心 ET
posted by 紅灯 at 00:22| Comment(0) | TrackBack(1) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月05日

「劇場版」とは言わせない

「容疑者Xの献身」を観てきました。
封切り初日に行くなんてよほど楽しみにしてたのかなどと思われそうですが、たまたま時間が空いたのと、行った回がレイトショーだったので、ドラマの特番の放送時間帯と重なり、空いてるんじゃないかと思ったんです。
甘かった。さすがに立ち見と言うことはありませんが(レイトショーだし)、客席は7割の入り。みんな留守録してるんでしょうね。もうタイムスケジュール通りにテレビを観る習慣なんてほとんどなくなってきたってことでしょう。視聴率なんて意味ないな。

さてその客席。レイトショーにもかかわらず圧倒的に10代後半から20代女子が多い。彼女たちの内訳は、福山ファン6割ドラマファン4割、またはその両方10割といったところでしょうか。
それから30〜40代のおっさん、これは一人客がちらほら。これはミステリファンでしょうな。

さてこの映画、言わずとしれた東野圭吾の直木賞受賞作にして大ベストセラーの映画化です。原作は、丹念に作られたミステリ小説の鏡のような端正な作品で、トリックは細心の注意を払って作ってあります。全編に伏線が張り巡らされ、しかし、お話自身は大変地味といういかにも東野圭吾らしい作品です。
ということはつまり、まったくもって映画化しにくい作品でもあるということです。
こういう映画を観るときのお約束は「期待しちゃいかん」と言い聞かせておくこと。
しかし一方、この映画のベースとなったテレビシリーズは、意外と原作の持ち味をしっかり生かした作りになっていましたので、「期待しちゃいかん」と思いつつも、「ひょっとして面白いかも」などと色気を出しておりました。

以下、結末やトリックに触れている部分があります。未見の方はご注意を。

オープニングはど派手です。ドラマシリーズのノリそのまんま。ですが原作にはありません(当たり前だ)。
「こりゃどうなんだろう」と思いつつ観ていると、いきなり地味になります。
今回の事実上の主役、堤真一演じる石神が住むアパートやその周辺の下町っぽいたたずまいなんて、もう原作のイメージそのままで、良くこんな場所ロケハンしてきたなあと感動したほど。
で、お話はほぼ原作どおり。「いいのか」「大丈夫なのか」とこっちが心配になるほど地味に原作どおりです。
しかし演出は非常に手堅い。時間、場所、人……、ミステリに必要な「伏線」をきっちり押さえています。原作を知らずに初めてこの映画を観た人は、もう一度見直すと「ああ、これか」「ここにも!」ってな感じで楽しめると思いますよ。冒頭の石神の通勤風景の描写にトリックが堂々と写ってたりします。
原作に使われる大技、登場人物の描写によって読者をミスリードする叙述トリックの部分もしっかり取り込んでいるし、とにかく2時間にまとめるための刈り込み方が大変うまい。
さすがに映画としてはあまりに地味なので原作にないシーンも付け加えていますが、これもありきたりながら抑え気味の演出が効果的。
監督の西谷弘という人は「県庁の星」を撮っていますが、基本はテレビの人で、「エンジン」や「ラスト・クリスマス」などを撮ったベテラン。テレビの「ガリレオ」シリーズも手がけていますが、テレビシリーズとはずいぶん趣が違う。最後の方に編集がおかしいと思ったところもあったけど(時間がなかったのか?)、映画とテレビの文法の違いをよく知っている人のように思う。

そしてラスト。
さすがに東野圭吾独特の後味の悪さフルスロットルのあのラストは変えるだろうと思っていたのですが、やりましたね。
CMでも流されている堤真一号泣の意味は・・・。主人公とヒロインが同じ場所で号泣しているのに、それが全くすれ違っているというか、ものすごく広くて深い谷が横たわっています。ミステリ&恋愛ドラマなのに、観客に絶対にカタルシスを与えない終わり方。
あのラストで「ねえねえ、ヒロインは○○のつもりなのに、堤真一は○○なんだよね、そんなのアリ?」などと不安に思った方、たぶんあなたはそれで正しい。
いいのかこれで、という映画ですが、いいんです。
この映画、福山雅治「ガリレオ」を選択せずに、東野圭吾「容疑者Xの献身」を選択したその心意気は見事と褒めておきましょう。
まあ、もともと原作もそうなんですが、そもそも「ガリレオ」というキャラでやる必要のないお話なんですね。ガリレオ役を刑事たちに交換すれば、そのまんま「特捜最前線」とか「七人の刑事」とかで最良のエピソードになりそうな地味で暗い、しかしよくできたお話です。
おかげでミステリ映画としては近年にない上質の映画となりました。
たぶんヒットはしないと思いますが。

映画が終わって出口へ急ぐ女の子たちやカップルたちの表情は一様に芳しくありません。
主人公たちは号泣しているのに客は引くばかりで全然泣けないし(私は主人公の悲惨な心情を思うと泣けてきましたが)、話は(舞台設定は)びんぼー臭いし。
主人公のはずの福山くんは全然活躍しないし(でも相変わらずお洒落。そのお洒落が思い切り浮いてる)。
私の目の前を歩いていた10代後半の思い切りヤンキーなカップルは、剣呑な雰囲気を思いっきりまき散らしながらシネコンを出るまで口を聞くどころか顔を合わせようともしませんでした。あれはこの後「映画を観よう!」と誘った誘わないで間違いなく喧嘩になったと思われます。

最後に役者について少し。
最近妙にインテリの役が多い堤真一は絶好調ですな。JAC(千葉真一が作ったジャパンアクションクラブ)出身だってもう知ってる人も少ないかも。この数年やたら出演作が多いですが、こういう線が太くて幅広い役柄ができる俳優減ったからなあ、貴重なんでしょうな。
福山雅治は、テレビドラマでは割と評価していたんですが、映画は向いていないようです。

あと、益岡徹が相変わらずいい味出しています。

posted by 紅灯 at 16:54| Comment(0) | TrackBack(1) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする