俳優を引退し、ガンと戦っているというニュースは入っていましたので覚悟はしていましたが、やはり寂しい。以前書いたシドニー・ポラックやロバート・レッドフォード(こちらは存命ですが)らとともに、良きハリウッドを作り上げたビッグネームでした。
若い頃はギラギラとした男臭いイメージだったようですが、うまく歳を重ねてキャリアを積み上げました。
「熱いトタン屋根の猫」→「ハスラー」→「明日に向かって撃て!」→「ロイ・ビーン」→「スティング」→「スクープ・悪意の不在」→「評決」→「ハスラー2」→「ノーバディーズ・フール」と見ていくと、「おお、いい感じで歳をとってるじゃないか」と思いませんか。
作品に恵まれないという言い方もしばしばされる人でしたが、こうやって書き出してみると決してそんなことはない。おそらく、「ニューマンにはもっと代表作があるはずだ」と思わせる何かがこの人にはあるんでしょうね。
アカデミー賞をずっと獲れなかったのも、「うーん、もっといいのが観たい」とアカデミー会員に思わせたのかもしれません。
確かに、男臭い役で人気になったのに、「明日に向かって撃て!」はそれをレッドフォードに譲って、自分はひょうひょうとした食えない男を(でもキャサリン・ロスといちゃつくレッドフォードを陰から見つめる切ない男を)楽しそうに演じていました。
かと思うと「ロイ・ビーン」では豪放磊落な男の中の男、「スクープ」はシニカルなブルーカラー、「評決」は落ちぶれた弁護士が立ち直るまでをしみじみと演じ、でもどれをとっても「ポール・ニューマンである」という印象を残します。といってデニーロのようなすべての役を引き寄せるタイプでもマルコビッチのような憑依型でもないという珍しいタイプの役者でした。
よく言えば底が見えない、悪く言えば手を抜いているように見える、自然体の俳優とでもいうんでしょうか。
私が最も評価しているのは「評決」で、念願のオスカーはこれであげて欲しかったと思いますね、今でも。
ちなみにこの年のアカデミー賞は「ガンジー」「ET」「ミッシング」「トッツィー」そして「評決」が争うという、アカデミー史上特筆すべき激戦の年でした。俳優として「ラッキー」な人生を送ったニューマンは、でもこういう運には恵まれなかった人でした。
でも多くの人がこの映画をニューマンのベストに挙げると思うので、ここは当ブログの追悼記事の慣例として、目立たないけどお勧めの一本を。
それは「スラップ・ショット」(1977)。
連戦連敗のアイスホッケーチームの奮闘ぶりを涙あり笑いありで見せるジョージ・ロイ・ヒルのドタバタ人情ドラマ。ジョージ・ロイ・ヒルはもちろん「明日に向かって撃て!」「スティング」の監督です。しかしこの2作に比べて肩の力が抜けて(抜けきって)、もう本当にリラックスして楽しめる快作に仕上がっています。
チームの監督のニューマンがいいんだなあ。男臭くてバカで、でもナイーブで。
そう言えばポール・ニューマンって、時々見せるバカっぽい表情が本当にバカっぽくていいんです。レッドフォードみたいに「バカやって見せてます」みたいじゃなくて、本当にバカ?と思わせるところが、人なつっこい魅力なんでしょうな。
そういう魅力全開の一作、是非ご覧下さい。
ラベル:ポール・ニューマン