シドニー・ポラック。職人監督と言っていいと思うし、本人もうれしいかもしれない。
サスペンス、ラブロマンス、ミステリ、アクション、国際陰謀もの、とにかくまあ節操なく何でも撮った。
で、どれも楽しめる娯楽作ばかり。ハリウッド映画はこうでなきゃっていう「顔」のような人だった。
監督作で言えば、ダスティン・ホフマンが女装して話題になった「トッツィー」、バーブラ・ストライザンドとロバート・レッドフォードという誰も考えないだろうこの組み合わせでラブロマンスはっていうのに大ヒットした「追憶」、地味なのに面白いCIAもの「コンドル」、アル・パチーノのメロドラマ「ボビー・ディアフィールド」、ポール・ニューマンの社会派ドラマ「スクープ」、アカデミー賞を総なめにしたメロドラマの王道「愛と哀しみの果て」、トム・クルーズのサスペンス「ザ・ファーム法律事務所」など、こうして挙げると旬の俳優を実にうまく使いこなしているのが分かる。
この嗅覚の良さはプロデューサーとしても存分に発揮され、ミシェル・ファイファーの魅力全開「恋のゆくえ・ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」、マイケル・J・フォックスのナイーブさがうまく生かされた(ヒットはしなかったけど、これはフォックスの代表作と言っていいと思う)「再会の街」、ハリソン・フォードのイメージをスター・ウオーズから「演技派」に塗り替えた「推定無罪」と、いとまがない。
本当にハリウッドの持つ「良さ」「明るさ」「屈託のなさ」を体現した監督だった。
で、ここでは余り注目されそうにない1作を取り上げたい。
初期の一本「ひとりぼっちの青春」。
賞金のために過酷なダンス・マラソンに出た一組のカップル(ジェーン・フォンダとマイケル・サラザン)が、過酷な試練を乗り越えて……というと、今ならいかにもアメリカ的なハッピーエンドを想像しそうだが、そうはならない。この救いようのないラストはハリウッド映画史のなかでも特筆に値する。
1969年という製作年ならではであるけれど、狂気と悲壮感と絶望に充ち満ちた映画だ。格差社会は今に始まった問題ではないし、希望と絶望は表裏一体。アメリカン・ニューシネマに乗っかったと言えばいかにもポラックらしいと思われるかもしれないが、しかし、常にポラックの映画にあふれる優しい視線は、この映画が出発点となったことを考えると、逆にわかりやすいのではないかと思う。
(映画のタイトル表記ミスを手直ししました。ご指摘ありがとうございました。タイトルはちゃんと確認しなきゃね。5/28)
ラベル:シドニー・ポラック